昨日は大雨、今日は真夏日とあわただしく、気候が変動します。
この時期に風邪をひいている人も多く、体調管理の難しさを感じます。
A.Nさんから、紹介文が届いていますので、それからご紹介します。
紹介者:A.Nさん
栞の会で取り上げられたので主人公の生きざまに興味を持ち読んでみました。
戦争中、政府からの密偵として中国の西域奥地に潜入し、
過酷な旅を続け、戦後もそのままラマ僧に扮し、
ネパール、インド、チベットまで険峻な山々の旅を続け、
最後は、日本政府によって捕らえられ帰国させられた人物がいた。
その人物に、彼の著書『秘境西域八年の潜行』とインタビューをもとに、
作者が事実に忠実に書こうとした渾身の本です。
こんなに過酷な中をよくぞ生き抜いた、ただ驚嘆するばかりです。
強靭な肉体と意志、柔軟な対応力と機転の利かせ方、
生活の術、語学力の強さ、他人と仲良くできるタイプ等、
そして何より神のご加護というか幸運がなければ
無事の生還はあり得なかったでしょう。
どうあっても疑問に残るのは、帰国してからの主人公の生き方です。
他人のために自分の修行と思い、危険を顧みず行動していた彼が、
なぜ戦後岩手の片隅で小さな化粧品屋を営みながら、
妻と娘と最低限の質素な生活を送ったのかです。
彼の持つ語学力ならどんな職業にも生かせたはず。
強靭な肉体と明晰な頭脳は戦後復興に大いに役立ったはず。
天皇のために頑張ったのにその時の天皇の姿、
有りようが変わってしまったから?
戦後の日本の歩み方が自分には相容れられなかったから?
過酷な自然の中信仰心を持って清貧に生きる人々が忘れられなかったから?
・・・いろいろ想像は尽きません。
ただ、同じく密偵として派遣され度々行動を共にすることがあった同胞を、
帰国後の活躍ぶりを評して「一人では何もやれない男」と言っています。
彼にとって「一人で生きる、生きることができる」ということが
何よりも生きる上で重要であったことは確かだと思いました。
それにしても一人娘さん、独身であったようですが、
世間とは違う、距離のある親子関係であったと語っています。
最後は介護まで背負ってしまい、「これは何だ?娘さんの幸福を犠牲にした?」
と私は思いました。
「一人で生きられることが大事、自分の人生は自分で決める。」
父の声を聞いて育ったのかもしれません。
朝日新聞の藤田香織という書評家が
「感涙も震撼も驚愕も興奮もしないが、とても大切なものを読んだという感慨が残る。
小説っていいな。」とあったものですから、
退屈そうな本が面白い?と手にとりました。
まったくその通りでした。
著者にとって「滔々と流れていく日常の時間」がテーマなのだろうと思います。
コロナ下における全く関係のない3人の日常が、
東北大震災とコロナを軸に、時を追って交互に実に淡々と描かれます。
そう、私たちの日常は忙しい。
新聞やニュースで大きな事件や災害を見ても、
気には留めてもそのことで行動する暇はない。
自分はこうしたほうがいいと気づくことはあっても何もしないまま時は過ぎていく・・・
私たちの日常がまさにそういうものだからこそ、短縮された時間の起承転結
<その山は高いほうがいい>を求めて小説を読むのだと思います。
書く方もそこのところはよく心得、派手に話を盛り上げる。
嫌味にならないように文章を工夫し、最後が大事、
読み手に感動が残るような締めくくりとする。
それにおよそ程遠い本書なのでした。盛り上がらない。
一つだけ親があまりにも旧態依然とした要求をするので
偽装離婚をするという場面がありましたが。
本書は令和5年度芸術選奨文部大臣賞に選ばれたことを
本書読書中に知りました。
読後、ニュースを見たり、友人の体験談を聞くたびに
「そうだよなあ、なにかしたほうがいいのかも」
と日常からの脱却を思いはするものの、元のままの私なのでした。
それにしても、このようなスタイルの本を読むことは丹力のいることで、
よほど活字が好きでないと完読に至らないと思います。
幻冬舎新書版の少々俗っぽい題名のついた本に惹かれて図書館で借りました。
中身は近代日本文学の歩みについての文学論になっていて、
大学生だった頃の近代文学の佐藤勝先生の授業を彷彿とさせる密度の濃い内容でした。
この著者は、日本の文芸評論家、「早稲田文学」編集主幹、
早稲田大学文学学術院准教授ですが、スポーツ・ギャンブル・社会批評まで
幅広く評論活動を展開している方なのだそうです。
多弁で、読んでいなくても本の内容が分かるように、
持論は重ねて丁寧に、簡潔なまとめを必ず最後に付けて、
頭のキレる方にはくどく思われると思いますが、私にはちょうど良かったです。
日本の近代化の手本はアメリカ・ヨーロッパであったが、
「文学」は人民の精神(心)を近代化させる重要な役割をになっていた。
近代化政策は「古い父=ダメな父、しかしながら彼に食べさせてもらってる」
を失い、敗戦してからは特に「模範的な父=アメリカ」に対して
「屈辱」と「依頼」の心持を抱きながら、
作家たちは、アメリカの影をどう位置付け、どう乗り越えるか、
意識するしないにかかわらずこの流れの中で悪戦苦闘してきた。
当然ながら評論家も同じ思いであった。
村上春樹の「風の歌を聴け」の出現は評論家にとって、
驚きと落胆と羨望と期待であった。
このハイカラでバタ臭さは何か?
アメリカの単なる物まねか?乗り越える努力の賜物か?乗り越えた?
当然芥川賞候補に選ばれましたが、選考委員の意見はばらばらで落選となりました。
この後も村上は何度か候補になりますが落選続き、
芥川賞は新人に贈られるものですから古株になって退場せざるを得ませんでした。
村上は父(制度としての束縛=アメリカ)になることを拒絶し、
母(情念としての束縛=日本)にもたれることにも背を向けて、
自分の見たくない根っこを「擬態する小説=あえてアメリカの物まねをすること」により、
「個であり自由であることを求めた」。
村上自身もそれ(アメリカを乗り越えること)が自分にとっても
普遍のテーマであると後に語っています。
それを選考委員は日本の情念に引きずれられて、見抜くことができなかった。
そういうことでした。心眼を感じた本書でした。
今、ようやく「銀河鉄道の夜」を読んだ、
と思える記念すべき本となりました。
宮沢賢治は名前と「雨ニモマケズ・・」が先行して、
作品を手にとるものの、昔言葉と方言、
彼の造語としか思われない聞いたことのない単語、擬態語、擬音語、話が飛ぶ、
の乱立で、理解しにくい作品が多い、
「銀河鉄道の夜」も星の名前が意味ありげに使われていて、
天体に弱い私には今一つ理解しにくい、そう思っていました。
天体を少しばかり勉強する羽目になって、
天の川、夏の三角形等が頭にインプットされた時、本書に図書館で出会いました。
実に面白かった。
賢治の履歴と人となりが理解できて、
天文学者とともに銀河の旅を楽しみました。
賢治の研究書は膨大で、他にいい本があるかもしれませんが、
本書は賢治を理解する名著だと思います。
「銀河鉄道の夜」の元本(未完)のパートナーです。
一読をお薦めします。
著者は1960年福島県生まれの天文学者・理学者で、
この本は昨年8月に発行されました。
それにしても「銀河鉄道の夜」は、賢治が彼の生き方すべてを投影させて、
血の出る思いをして描いた珠玉の本だと思いました。
未完だったところがいい。
賢治の運転する銀河の列車に、世界のみんなが乗って最終駅を探しながら走り続けている・・・・
最近、空とか月とか星とかが付いている題名の本が目に付くと、
読むようになっている私ですが、図書館の新刊児童書にありました。
作者は、イングランド・ウィルトシャー出身で現在ストックフォルムに在住、
小説の舞台は寒さ厳しいストックフォルム郊外のメーラレン湖とその近辺。
母子家庭で、バスで行ったところに母方の祖父が住んでいる、
母親は働くのに忙しく、友人もなくラージという男の子に
ひどい苛めを受けている孤独な女の子。
彼女がある日、雪一面になった湖のそばに、
足跡のないスノーエンジェルを見つけます。
足跡のないスノーエンジェルがどうして作れるのか?
疑問に思っていると、とある日・・・
自然描写が生きていて、「ザリガニの鳴くところ」を思い出しました。
文章もてきぱきとしていて、読み易く(児童書だから当たりまえ?)
追撃シーンなど動画を見るように迫力満点、テンポがいい。
ナチスのような問題は二度と起こらないようにすること、
与えられた仕事はやりぬく、著者の思いはそこにあったのだと思います。
イスラエル・ハマスは戦闘中にあり、
ネタニヤフのむごいやり方に世界の多くが異を唱えている今、
ホロコーストを基本とした本書は、容易に受け入れられるような気分にはなれない
と思いました。
戦争だらけの人間の歴史。
「許すこと」しかないのではないかと私は思います。
日本人のように「忘れてしまう」も問題ですが。
紹介者:A.Nさん
紹介者:S.Mさん
紹介者:A.Oさん
紹介者:A.Oさん
紹介者:A.Oさん
紹介者:M.Sさん
この本は2024年刊の文庫本だが、初出は、2009年から2014年。
ここに選ばれた各著書は、まだ読んだことが無くても、
選んだ選者のその著書に対する解説や思いが、それ自体で充分読みごたえがある。
内容は以下の通り。
第1章:定年後に読みたい30冊
――1人1冊選、30人による30冊。
「60歳になったら読み返したい41冊」として「文藝春秋」2012年11月号に初出
第2章:世界遺産に残したい「不滅の名著」100冊
――4人の選者で各25冊ずつ計100冊を挙げる。
選者たちが対談しながら、選んだ本について感想を述べ合う(初出2014)
第3章:定年後を支えてくれる古典10冊
――「今こそ日本人のよりどころとして」とか「自分なりに死と向き合うために」など、
推薦理由つき。(初出2011)
第4章:わが心の書23冊
――中高校時代に初めて読んだという書も多い。選者の人生も垣間見られる。
(初出2009)
第5章:縦横無尽に面白い時代小説50冊
選者は山本一力、縄田一男(文芸評論家)、本郷和人(東京大学准教授)
対談形式だが、各選者が挙げた50冊ずつのリストがある。(初出2010)
個人的には、この章が面白い。
紹介者:M.Sさん
著者は1941年生まれで2022年に逝去
多摩美大を卒業後イラストレーターとして就職したが、
星の観察を優先するために福島に移住。
白河天体観測所(那須高原)を星仲間と設立(オーストラリアにもチロ天文台)。
著作も非常に多い。
天体写真家として、夜空が地上の光の影響の少ない地域を求めて旅し、そこでの体験を記録。モノクロだが星座や土地の写真付き。
今ほど気軽に海外に出かけられない時代、環境の近代化もさほど進んでいない時代に、ひたすら星空を求めて旅し、
その地での星座の描写、土地の人々との出会い、
その地で語り伝えられる星の話、それらを淡々と述べているが熱い内容である。
特に、日本では見られない南半球の星座にも著者は魅了されている。
この本は、最初の版は(単行本)1976年に出、その文庫本化が1986年、そして今回文庫本として再版された。
紹介者:S.Cさん
紹介者:S.Cさん
紹介者:S.Cさん
紹介者:T.Yさん
紹介者:T.Yさん
管理人:A
「栞の会」の会員の方に是非読んで欲しいと、所沢支部のS.Kさんから紹介された本です。
岡範子さんは 所沢支部のC.Yさんの教え子です。