今回、管理人は北海道からの参加でした。
北海道という離れた場所からでも、「栞の会」ができるということに、
改めて、Zoomのツールの便利さを、再確認いたしました。

先週の水曜日にこちらに来たのですが、
着いた翌日は、吹雪でホワイトアウト。
息子は、昨年は、70歳の男性が、ホワイトアウトのために、
自宅まであと70mというところで、亡くなられた、と言っていました。

都会の便利な生活に慣れていると、こちらの生活の大変さが身に沁みます。

さて、今週の報告です。
常連のNさんから原稿が届いていますので、
まずそれからご紹介しましょう。

音楽と生命 (新書企画室単行本)
坂本龍一・福岡 伸一
集英社
2023-03-24
紹介者:A.Nさん
 坂本龍一が亡くなってから、朝日新聞は毎日のように彼の<音楽へのあくなき追求>と、
<時事的な行動>を取り上げていましたが、私は3歳年下の彼を名前は知っていましたが、
音楽を聴いたこともなく、テレビで見たこともなく、書いたものを読んですらなく、
亡くなって興味を持つのは悲しいことです。

 真っ白な光沢のある紙に銀の文字のタイトルが書いてあるだけの、
シンプルさがかえって中身までも上質豪華に見せ、
ふたりの純粋さ・崇高さを象徴しているような表紙の本です。

 ニューヨークに本拠を置く二人は、20年来の知り合いで、
度々会って語り合う仲なのだそうで、
この対談はEテレの「SWITCHインタビュー(20176月)」で放送されたものに
加筆訂正されたものです。

 福岡伸一は「ハカセ」と言われているくらいですから
博覧強記なことは分かりますが、坂本龍一の博識(かなり高度な専門書を読んでいます。)
なこと、頭がよく、考える人なのだとつくづく思いました。

 二人の追求するところは音楽と生物学と分野は違いますが同じ。
「一方的に進む時間の中で、自然の豊かさを回復する」ことです。
多分人間には「ロゴス化=人間の考え方・言葉・論理」する機能が
もともと備わっていると思われ、古来あらゆるものをロゴス化し
人間の世界を理解し発展させてきた。
今まで、福岡は、ひたすら先人がやって来たように、
細かく細胞を切り刻んで人間を理解しようとしてきた。
坂本は、五線譜(今は八線譜などまである)に記号として書きつけて、
音符の組み合わせをすることによって音楽を作ってきた。
この辺で、所詮人間の頭で考えることに限りはあるけれど、
忘れられていた「ビシュシス=我々を含めた自然そのもの」に戻って世界を回復しようと、
ふたりは悪戦苦闘しているのです。

 福岡がたどり着いた研究題目「動的平衡」という理論は、
生態系は破壊と再生の循環で、破壊の量の方が少し多く次世代にDNA を残しながら
やがて滅びる、それを彼は精緻に理論化しようとしています。

 坂本がたどり着いたのは「async」、つまりsynchronization=同期、調和、
再現性の「a」=否定、ビシュシスとしての脳を持ち、
非線形的で、時間軸がなく、順序が管理されていない音楽を作りたいと
希求しています(いました)。

 ふたりの進む方向は同じです。
前回、藤原辰史著「植物考」を読んだ時も、
いやこれらを読まなくても今は混迷の時代であることが分かります。
AIがどんどん進む中、ビシュシスたる人間が生き易くなるためには
どうあるべきかの方向性を、それぞれの分野で追及し
悪戦苦闘している時代なのだと思いました。
高度経済の時代の中を何も考えず謳歌させてもらった私は
彼らの努力の賜物を見ることが出来るでしょうか?
こんな言い方をすると、まさに他の世代から食い逃げの世代と言われる
我々そのものになってしまいますね。 

紹介者:A.Nさん




新版 縄文聖地巡礼


新版 縄文聖地巡礼
(2010年発行)
坂本龍一×中沢 新一
イースト・プレス
2023-12-19
紹介者:A.Nさん
 

 坂本龍一の本をもっと読みたいと図書館の本の検索をしていたら、
上記の本を見つけました。
画家の岡本太郎は縄文の旅をし、縄文の痕跡をたどって作品を作りましたが、
音楽家の坂本にとって縄文の旅はどんな意味を持つのだろう?そう思いました。

 オウム真理教以来、現代思想の代表格として著名になった
宗教学者・文化人類学者である中沢新一と縄文の残る場所を旅しながら、
会話を重ねた記録の本です。
ここでも坂本は、中沢と互角の幅広い知識と関心意欲を見せています。
頭のキレ者です。

 911で露呈された、産業革命以来突っ走って来た資本主義や
国家のあり様が終焉を迎えている。
それだけでなく資源の限界や汚染の問題など、地球全体が危機を迎えている。
これを乗り越えるためのヒントが、貨幣も国家もなく農耕もなく狩猟をしながら
一万三千年~三千年くらい前の間平和に暮らしてきた縄文にある。
人間の心の基点を、旧石器時代に作られてそのまま形を変えないで利用されている
無意識の構造に据え直す、そうしないと世界は行き詰まる。
彼らの旅の始まりです。
2007年のことですから16年も前のことです。

 2004年の時点で坂本は「縄文人の記憶をたどりたい」と青森を訪ねていたそうです。
そこからアイヌの人に会うために北海道へ、そこから一気に西表島へと旅し、
私は見ていませんが、テレビ番組「坂本龍一の日本再発見 ぼくの未来を探す旅」として
放映されていたそうですが、本書は、その後中沢と旅した諏訪(20075月)・
敦賀/若狭(20067月)/奈良・紀伊田辺(2007年月)/山口/鹿児島(20075月)・二度目の青森(20079月)・

エピローグ(坂本は2008年にグリーンランドの地球温暖化の実態を調査する旅にも
出かけています)の順に記載されています。

 この旅で彼らは何を発見し、何を感じ、何を思ったのか?
坂本は音楽をどう作ればいいと思ったか?
そもそもなぜ我々は音楽をするのか?いつから音楽をしたか?
その音楽はどう発展してきて今はどうなのか?

 それぞれの縄文への旅は私にとっては思わぬ発見だらけで
実に含蓄のある面白く楽しい本でした。壮大な旅でした。
人間がアナロジー(ちがうものどうし間に共通するものがあるという認識)を持った時が
ホモサピエンスの始まりだったそうで、音楽と数学がアナロジーの代表らしいですよ。
会話体ですから読み易いです。

 

それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤 陽子
朝日出版社
2015-08-11
紹介者:A.Nさん
 本著は14年前に書かれ、大分話題になった本で私もその頃読みましたが、
小林秀雄賞を受賞していたとは知りませんでした。
友人が話題に出したので2度目の読書となりました。

 栄光学園の歴史に関心のある中高生への講義をまとめたものですが、
恐らく東大の一般教養並みと思われる程度の高い内容を、
質問や意見を挟みながら分かり易く講義しています。

 最後のページの、公文書管理法成立の報を聞きながらと署名の前に書き入れた
「おわりに」に至っては感動し涙が出ました。
若い方は、刺激的な題名に惹かれず、むしろ内気で控えめな本を手にとり、
しっかり歴史を勉強するように、この知識がどれだけ蓄積されフィリングされたかで
社会が決まるのだから。
彼らへの期待を暖かなまなざしで静かに語りかけている学者お母さんの文章でした。

 ここで「ぜひご一読を」と終ればいいのでしょうが、
蛇足を、しかも長くなってしまいました。

 私が特に印象に残ったところをお伝えします。

 *日露戦争が終わると補償金が出なかったこともあり、日本はジリ貧。
しかも、他の国は、日本が戦略的に領土を狙っていると、
相当日本に危機意識を持っていました。四面楚歌のなかで戦争を始めたのでした。

 *当時の大国はアメリカ、ロシア、大英帝国・イギリス、中国。
中国は決して眠れる獅子ではなかった。
しかも、中国には政治があった、と著者は書いています。
知識人が、悪くなる情況を想定してシビアに議論する。
それに対し日本は希望的観測のみで最悪の場合を考えることを避けている。
戦争をする勝ち目は?と天皇に聞かれても、勝算は7,8割くらいある、
戦争しないと豊臣が徳川に負けたような状況に陥ってしまうので、
開戦に賭けたほうがいい、と乗り切ります。
「賭け」で開戦したのです。

 *当時は軍部と警察が幅を利かせすぐ暴力に訴え、政治家は命がけで、
内閣も天皇への被害を思い強く戦争回避を強く推せなかったということです。
が、軍部はそれなりに国民の支持を得ていたそうです。
この頃は半分近くが農民で、世界恐慌をきっかけに過酷な影響が農民に出ていました。
25歳以上の男子による普通選挙が3回ありましたが、
政友会も民政党も漁民・農民の見方にはなってくれず、
彼らの疲弊の救済のスローガンを掲げたのは軍部だけだったそうです。
しかも軍隊になるのは漁民・農民の若者たち、日本とアメリカとの財力の決定的な差、
勝てないかもしれない、だからこそ開戦して勝つしかない、
そう危機感をあおり味方につけたそうです。

 *学者の中には勿論、南原繁など開戦は暴挙だと嘆く者がいましたが、
竹内好や伊藤整などは開戦に感動しています。
「すっきりした、日中戦争は弱い者いじめだったが、
今度は大国に挑む明るい戦争」それが理由。
これは一般人も同じだったようで、すっきり感。
いかに当時国民が閉塞感を持っていたかが分かります。
が、それにしても2度の戦争に懲りずに開戦を選択してしまう日本人は耐性がない、
と私は思いました。

 *兵士の食糧は現地調達、短期決戦でいけば勝てると他力本願で始めた戦争。
日本は諜報面でも戦闘機の制作技術もかなりなものではあったそうです。
ただ、アメリカの戦争が始まってからの戦闘機の増産の勢いが凄く、
同盟国に貸し付けていったことが日本の敗戦に繫がっていったそうです。

 *日本人が太平洋戦争に対する罪の意識より被害者意識が上回っている原因について。

 日本が勝っていたのは半年ぐらい、ミッドウェー辺りから負けに入り、
2年後からは圧倒的な日本の劣勢に入ります。
戦死者のうち9割が最後の1年半で死亡、しかもほとんど餓死者。
遺体への根強い信仰がある日本人に、戦死者の死に場所を教えられなかったことが
被害者意識が上回っている要因の一つ。
政府の呼びかけで満州に行ったのに、あまりに引き上げが過酷だったことも一つの原因。
罪の意識を喪失するほどまでに戦時下の日本人のおかれた情況は過酷だったのかと
改めて思いました。

 *ドイツは戦後の食糧の復興が早かったそうです。
農業を大事にし、従事する男性は戦場に送らなかったそうです。
日本は派兵される兵隊たちの食糧だけでなく国内の国民の食糧の調達までも
考えなかったのです。

 *こんな自国民を大事に出来ない日本、捕虜の扱いがひどくなるのは当然であったと
著者は書いています。

 また、はじめのころ著者が記しています。

 *日中戦争前後、第二次大戦が始まる前に岡義武という学者が書いているが、
日本の民権派はイギリスなどと違って個人主義的、自由主義的意識が欠落している。
これがないと人々は国家のなすことにすべて是認してしまう。
不平等条約の下で国家をスタートするしかなかった日本が、
まずは国権の確立をと合理主義を優先させてしまった。

 今もってこの個人主義的、自由主義的意識、つまり、国家を越えてまず個人があり、
自由があるという意識が日本人に足りないのではないか?
私はそう思いました。

最近お忙しくて、欠席されているOさんから原稿が届きました。
以下に掲載します。

92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て
大川繁子
実務教育出版
2020-01-17
紹介者:K.Oさん


Yさんが、Kさんから頂いたものを先に貸して下さいました。
大川さんは1945年、東京女子大数学科に入学されますが、翌年結婚のために中退。
栃木県足利市にある「小俣幼児生活団」(ユニークな名前!)の
主任保育士として3000人以上の卒園生を送りだし、
<歳の現在も現役の保育士として活躍されています。

同園は大川さんの次男が園長を務めていて、
モンテッソーリ教育とアドラー心理学を取り入れた、
子供の自主性を尊重し、徹底的な見守りの自由保育です。
築170年の古民家を活用した園舎、3000坪超の園庭には立入禁止区は一つもない。
昼食はバイキングで、自分の好きなものを自分が食べられるだけ。
遊びに夢中で食べたくない時は食べなくともOK。
お昼寝も強要しない。
5才児だけ小学校に入る準備のために1日1時間だけ
同じことをする時間を設けているそうです。

スゴイ人を育てる保育ではなく、それぞれが持っている才能や力を
目一杯発揮する保育を目指しています。
そして、子供と母親の絆を育てるのは、時間よりも密度、
一緒にいる時にどれくらい良い時間を過ごせるか……
との言葉は、働く母親にとってなんと心強い言葉でしょうか。
(父親にも言い換えられると思いますが)

そして夫婦仲が良い、に勝る子育て環境はない、
という言葉にも強く共感しました。
子育てはとうに終え、孫でさえ小学4年生の私にとって、
もっと早くこの本に出会いたかった、と思う一方、
まだまだ沢山の教えが隠されていて、
これからも心に刻みたい教えが沢山詰まっている本でした。

まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵
アニー・デービッドソン リズ・マーヴィン
文響社
2022-04-08
紹介者:M.Kさん


紹介者:M.Kさん

ジューンドロップ
夢野寧子
講談社
2023-07-21
紹介者:T.Yさん


青い壺 (文春文庫)
有吉佐和子
文藝春秋
2015-08-28
紹介者:T.Yさん


紹介者:S.Mさん


人生が楽しくなる 西洋音楽史入門
山﨑 圭一
PHP研究所
2023-08-08
紹介者:S.Mさん


読む時間
アンドレ・ケルテス
創元社
2013-11-13
紹介者:S.Mさん


蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)
恩田陸
幻冬舎
2019-04-10
紹介者:S.Mさん


万事オーライ 別府温泉を日本一にした男
植松 三十里
PHP研究所
2021-08-20
紹介者:管理人A


先月に続いて、Yさんから、同窓生である植松三十里さんの本をお借りしました。
植松三十里さんの本を読むのは、これで、2冊目です。
先月読んだ「家康の海」は今一つでしたが、これは、面白かった!

これは、別府温泉を日本一の温泉にした、油屋熊八の波乱万丈の一生を描いたもの。
人生前半は、大阪で新聞記者をしながら、
そこで得た情報をもとに株で大儲けをしたかと思うと、
また、その逆で財産を失う。
第2の人生で、別府で温泉を始めるが、ここで別府温泉を日本一にしようと、
アイディアを出し合い、ユニークな仲間たちと、奮闘する。
どんな状況に置かれても、熊八の奇想天外な発想や行動力が、活きいきと描かれ
熊八にひかれて、あっという間に読んでしまった。