まだ4月というのに、時々夏日があったりして、
体がついていかない日が続いています。
皆様、体調を崩されていないでしょうか?

今月は、2015年卒業という新しい会員の方の参加がありました。
若い方のフレッシュな本の紹介があり、
新風を吹き込まれたような感じがいたしました。

さて、今月紹介された本です。

家康の海
植松 三十里
PHP研究所
2022-12-13
紹介者:T.Yさん


俳句と出会う
黒田 杏子
小学館
1995-01T
紹介者:A.Oさん

わが殿 上 (文春文庫)
畠中 恵
文藝春秋
2023-01-04
紹介者:Y.Oさん


わが殿 下 (文春文庫 は 37-31)
畠中 恵
文藝春秋
2023-01-04
紹介者:Y.Oさん


紹介者:Y.Oさん


子どもへのまなざし (福音館の単行本)
佐々木 正美
福音館書店
1998-07-10
紹介者:R.Hさん


紹介者:R.Hさん



空からのぞいた桃太郎
影山 徹
岩崎書店
2017-09-01
           紹介者:R.Hさん


ふたりのももたろう カバー付き特装版
キタハラケンタ
株式会社ドリームインキュベータ
2021T
紹介者:R.Hさん


ぼく モグラ キツネ 馬
チャーリー・マッケジー
飛鳥新社
2021-03-18
紹介者:H.Yさん


亡命トンネル29: ベルリンの壁をくぐり抜けた者たち
ヘレナ・メリマン
河出書房新社
2022-10-26
紹介者:M.Hさん


本心
平野啓一郎
コルク
2021-05-26
紹介者:M.Hさん


紹介者:A.Nさん


羊子と玲: 鴨居姉弟の光と影
植松 三十里
河出書房新社
2023-02-16
紹介者:A.Nさん


6ヵ国転校生 ナージャの発見
キリーロバ・ナージャ
集英社インターナショナル
2022-07-05
紹介者:A.Nさん


深き心の底より (PHP文芸文庫)
小川 洋子
PHP研究所
2006-10-03
紹介者:A.Nさん

 小川洋子の随筆です。ご自分のことを書いています。いい本でした。
「わが心深き底あり喜も憂の波もとどかじと思ふ」という
幼い頃おじいさんに聞かされた西田幾多郎の短歌から題名をつけ、
この短歌で書き始めています。

 自分は、ただ事実を書くのではなく、
深き底に身体を沈め見えないものを表出する作家になりたい、と言っています。
彼女の想いが沁みとおる本でした。

              <以下は蛇足>

 彼女の育った家は金光教の教会の離れの家、
小学12年くらいの頃はこの二階の物置の様な小部屋で、
家庭の医学大事典が愛読書。
百日咳、舞踏病、クル病、壊疽、水銀中毒、処女膜閉鎖症など
怖いものに惹かれたそうです。
そして図表や写真を見てさらに空想し想像するのが楽しかったそうです。
人間の存在が背負わされている、根源的な残酷さと醜さが
彼女を引き留めたのだろうと書いています。

 これだけだと幼い頃から小説を書きたいと望んだ彼女の作り出す小説は、
人間の残酷さを表出するだけの小説でしかならなかったのでしょうが、
金光教の人たちに囲まれ可愛がられて育ったことが、
優しさに満ちた世界を作り上げているのだと思います。
金光教とは幕末に流行った民間宗教のひとつで、
現在の岡山県浅口市の赤沢文治という農民が神の啓示を受けて起こした宗教ですが、
彼女の言うところによると、赤沢文治という人は苦労人で、
人間の醜さが渦巻くどろどろとした混沌の中に生き、
啓示を受けてからも苦難の一途であったそうです。
金光教は神と人間に明確な距離を置かず、
神は人と並列の関係にあるとし、
善悪、美醜、矛盾、不合理、曖昧すべてをひっくるめて受け入れる
極めて高い許容量を持つ宗教だそうです。
この許容の深さが、どう書いても何を書いてもよい文学に通じているのだそうです。
彼女は祈りながら小説を書いている、そう言っています。


ホテル・アイリス
小川洋子
幻冬舎
2013-12-09
紹介者:A.Nさん

 上記の随筆に、フランス北西部の海辺の町、サン・マロを舞台に書いた小説が、
岡山の海で育ったせいか瀬戸内海のものになってしまい
架空の町の小説になってしまった、と書かれていたので興味を持ち手に取りました。
なんと、官能小説でした。
それも鞭で叩かれたり縛られたりするSMもので、
「愛し合う」と作者は言っていたけれど私の感覚ではついて行けない本でした。
作者にとって官能小説は、画家が裸婦を描くのと同じく
難しくも挑戦すべき作品なのかもしれません。
読者が著者の構築したエロティシズムに触れ、
人間の肉体の底に宿るものに驚きおののくことが官能小説の名品と言うなら、
こんな性のあり方をする人もいるのだという驚きとおののきはあっても
エロを感じることは出来ませんでした。

 シングルマザーの経営する海辺の古びたホテルで、
高校を退学させられてフロントの手伝いをしている17歳の少女が、
ある日、泊まりに来て同伴の女性とえげつない口論をする男に出会い、
彼の罵声に惹かれます。
その声が聞きたくて、やがて二人は浜辺で出会い深い中になっていくのですが、
始めから男が求めたものは彼女を支配すること。
縛って鞭打って罵声を浴びせ言うことをきかせる、
それに彼女は痛みのなかの快感を覚え、
あくまでも優しく答えていく、そんなお話です。

          

              <以下は蛇足>

 小川洋子らしく虫の標本とかネズミの死骸とか死体とか目玉が飛び出るとか、
気持ちの悪い表現を駆使し性愛が描かれていくのですが、
彼女はエロティシズムを媒体に人間の真実の一面の深い底を追求したかったのだと思います。
だって私が戸惑いながらも最後まで読み切ったのですからただの官能小説ではないのです。
無国籍な小説だと感じ入った台湾の映画監督が台湾を舞台に映画を作り、
作者も満足しているようです。
きっと格調高いエロティシズムの映像になっているのだと思います。

 さらに蛇足を付け加えると、私は常々怖いことや辛いことに目をつぶる
自分の弱さに気づいていました。
「夜と霧」や「アンネの日記」を学生時代に読み切れませんでした。
そんな私と違って小川洋子は偉い!
そう思って彼女の小説に触れ、随筆で彼女を理解しようとしました。
でも、私のほうが多数派・普通ではないか?
普通とは何か、普通がいいのか、を度外視して彼女は珍しいタイプ、
少数派なのではないかと思ったのです。
さらに言えば、汚いものやむごいもの・辛いことを直視できる能力は
少しSMなところを持っていないと培われないのではないか?
彼女はそんなところを天性で持っているからこそ、
初めて描く官能小説がSMの性愛であった、そんな気がします。


埼玉化する日本 (イースト新書)
中沢明子
イースト・プレス
2015-09-25
紹介者:A.Nさん

「また埼玉の事をおちょくってる!」
そう思って図書館から借りたのですが早とちりでした。
著者は買い物が大好きでビジネス誌中心にジャーナリストとして活躍している方、
マーケット調査もいろいろしていて、この本も雑貨や洋服の消費をもとに
埼玉と日本を論じている本でした。
副題を付けるべきと思いました。

  東京で生まれ育った彼女の買い物は、
銀座の高級店かアーケードに連なる小さなお店の数々。
埼玉美園に大型ショッピングが出来たことから
埼玉に関心を持ち川口に転居、そこから大宮、
今は浦和のコルソの裏辺りに住んでいるみたいです。
東京の高級店にすぐ行けること、
お安い値段で気楽にそこそこ素敵なものが買える大型ショッピングセンターがあること、
この魅力に惹かれ。東京人が埼玉人になってしまったのです。

  デパートが消えていくようになって、地方には良いもの、
素敵なものにこだわったお店が増えているのだそうです。
勿論イオンモールの定番化した風景は全国一律。
つまり高くてもいいもの、気に入ったものも買え、
大型ショッピングセンターでレジャーよろしくお安くそこそこのものも買える=埼玉化、
こう日本はなってきている。そういうことでした。

  聞いたことのない横文字の店名が次々と出て来て、
時代を降りてしまった私は特にためになりませんでしたが、
雑貨、服に興味にある方は読んでください。新情報満載です。

 それとテレビで時々見る東京のごちゃごちゃした狭い商店街の店。
そこで、おじさんとおしゃべりしながら買い物をしている東京の方がいつもうらやましいと
私は思っていまして、私の周りには対面で買い物を楽しめる店がない、
無言の店しかない、その点、中沢さんはどう思う?聞きたかったです。

 なるほどと思ったのは一流ブランドは貴重だということでした。
そこそこの店のものはデザインは一流品の真似事、
これが出来なかったら、デザインから始まり、
生地の材質や色合い選び・・・安くて素敵なものなどありえないのだそうです。
セレブの世界あっての庶民の楽しみあり、そう思いました。

完璧な病室 (中公文庫 お 51-8)
小川洋子
中央公論新社
2023-02-21
紹介者:A.Nさん


 2022年の暮れに、作家のごく初期の作品4篇の文庫本をリニューアルした新装版です。
作者のあとがきを入れ、活字も大きく読み易くなっています。
以前読んだことがあるのですが、彼女の作風は変わっているのかが知りたくて再読しました。

 身体フェチなところ、こんなに肉体をいたるところに取り入れ
表現する作家はあまりいないと思います。
その身体を心情描写に利用したり、昆虫や動物を取り入れ、
細密に描写し小説の世界を作り上げるところ、
それなのに不思議と美しい透明感あふれる世界になっているところなど、
少しも変わっていないと思いました。
初期の気負いでしょうか?張り詰めた書き方になっていて、
今はずいぶんと肩の力が抜けて書いているなと思いました。
あとがきで作者はこのように述べています。

 「小説は書かれた途端、作者の手を離れ、読者のものになる。
小説と読者は11の関係を結ぶ。
いい小説であればあるほど、その関係は密接になり、
魅惑的な秘密を共有するようになる。」

 これを読んで、独りよがりの読み方でいいんだと変に自信が付いた私でした。

 

           <以下は蛇足>

 「完璧な病室」(19893月初出・・初めて本になった)

 潔癖症の主人公が、癌に侵され病室で亡くなっていく弟を看取る話です。
清潔な(完璧な)病室をこよなく愛し、
やがて、主治医の胸の水泳選手的な筋肉に憧れ、
自ら頼んで筋肉に包まれるよう抱かれて一人になる孤独を癒す、
お掃除好きな方に推薦します。


 「揚羽蝶が壊れるとき」(198811月・・海燕新人文学賞受賞)

  痴呆症になった祖母の介護が続けられなくなり、
介護施設に預けるまでと、預けてから8日間くらいのことを書いています。
詩人の彼氏がいる独身女性の話です。
私には作者の書いた意図が読み取れません。
小説とは読者のものとして独立して世界を作る、
という作者の言葉に甘えてみても私の読後感は、
自分の体の敏感な女性がお腹に子供の出来たことを感じ、
そのことを彼氏に告げても喜ばれはしないし、
自分自身も異質なものとしかとらえられない、
そんなものでしかありませんでした。
これだけの豊富な筆で書いているのだからそれだけではないはずと思うのですが、
私の想像力の貧困です。
作者が、一番影響を受けた作家は村上春樹と言っていますが、
彼の後期の作品の難しさに読むのを諦めた私には、
村上春樹の新作の長編へ再挑戦しようと思っていましたが、
この本について行けないなら無理だと思いました。


 「冷めない紅茶」(19905月)

 30年前のゆったりした日常の世界を味わいたい方にお薦め。

 中学時代の友人の死を知り、死についてあれこれと考えるようになった時、
お通夜で同じ同級生に呼び止められ、彼の住居に招かれるようになります。
美人な奥さんと繰り広げられる夫婦の世界。
上品でゆったりしていて、家具調度の品の良さ。
透明感あふれる家庭への訪問が重なりますが、
ある時家を訪ねると彼女がいなく、彼が紅茶を入れてくれます。
ふたりで待っていると冷めるはずの紅茶が冷めていない、
妻を待つ彼に別れを告げ帰途に就きながら、
海に続く長い坂を下り闇に飲み込まれていく自分を見る、幻想的なお話です。

 「ダイヴィング・プール」(198812月)

 4篇の中で一番まともな(?)本です。
満たされない人間が残酷な行動を起こしたくなる、よくあるテーマだと思います。
教会の一人っ子として育ったのに、両親には孤児たちと同じ待遇で育てられ、
不満を抱いている主人公が、ある時15か月の女の子にひどい仕打ちをしてしまいます。
主人公にはひそかに恋心を抱く孤児がいました。
とても均整の取れた肉体、ダイビングのフォームの美しさ、
彼女は彼が見たくて、毎日密かにプールに通い詰めているほどでした。
その彼に、幼児への残酷な行為を見られていたことを知る、そんなお話です。

 「午後の最後の芝生」村上春樹

 上記の小川洋子の本のあとがきに、自分が一番影響を受けた作家、
村上春樹の短編の中で一番好きな作品だと書いてあったので読んでみました。
彼と話す機会があった時に、そのことを言ったら、
彼はすっかりその本のことを忘れていたそうです。

 恋人から別れを告げる手紙をもらい、そのことが消化しきれないまま、
これを最後にやめようと決心した芝生狩りのアルバイトに向かい、
そこでくすの木みたいな大きな白髪の女主人に声を掛けられます。
仕事が終わり、丁寧な仕事がなされた芝生の美しさに感心した女主人は、
自分の娘のらしい部屋に彼を案内し、家具調度やその中身を見せ彼に感想を聞きます。
思いつくままの感想を話した後、その部屋の主のことは何も明かされないまま、
その家を後にすることになります。
帰途、彼の恋人への想いは吹っ切れていました。

 芝生のある風景とぶっきらぼうな老婆とのやり取りが幻想的に浮かび消えていく、
上記の小川洋子の「冷めない紅茶」のような作品だと思いました。


帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)
コニェッティ,パオロ
新潮社
2018-10-31
紹介者:M.Sさん

この作品が映画化され、5月から国内でも一般公開されると知り、
以前読んだこの本を再度手に取りました。
イタリア北部の山岳地帯を舞台にしたこの作品、
実際の風景の画面が見られると 今からワクワク期待しています。

 

物語の概要:ミラノに住む少年ピエトロ。
彼の両親、特に父親は山を愛し、夏は毎年、山麓グラーナ村の小屋で過ごす。
父が仕事でミラノに帰った後も母と彼はそのロッジでひと夏を過ごす。

その村で、同年代の少年を見かけるが、互いに声をかけることが出来ない。
しかし母の仲介で友となり、彼の後を追って山懐の自然を駆け回る。
ここからこの二人の長い友情が始まる。

そして、ピエトロの父を含む3人の、山を舞台にした人生が語られる。

山の描写が非常に丁寧で美しい。


回復する人間 (エクス・リブリス)
ハン・ガン
白水社
2019-05-28
紹介者:M.Sさん

 前回の「栞の会」で、ハン・ガンの「すべての、白いものたちの」を紹介しましたが、

同じ作者のこの本が近くの図書館にありましたので、読んでみました。

 

7つの短編から構成されている。

それぞれの登場人物の、家族や友の死、自分の病、怪我・・・
それらの状況の中で揺れ動く感覚の描写が緻密。
饒舌ともとれるほどの描写と場の展開が作者の個性と言えるでしょう。


詩ふたつ
長田 弘
クレヨンハウス
2010-05-20
紹介者:M.Kさん


悲しみのゴリラ
ジャッキー・アズーア・クレイマー
クレヨンハウス
2020-11-25
紹介者:M.Kさん

白い病 (岩波文庫)
カレル チャペック
岩波書店
2021-12-23
紹介者:S.Mさん


動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
2017-01-07
紹介者:S.Mさん


紹介者:管理人:A


1か月ほど前に、朝日新聞の読書欄で紹介された。
 

ボリビアで、1979年に集中豪雨があり、唯一の交通手段である鉄道が破壊。
食料も何も手に入らない状態で、復旧を世界に呼びかけたが、応じる国ほとんどなかったが、
日本は援助資金55億円の供与を決定、ODA(政府開発援助)として大成建設と

日建ボリビアのコンソーシアムが復旧工事に従事した。

酷暑や豪雨にさらされながら、日本人、ボリビア人、ブラジル人が
汗水泥になって線路や橋梁を作った記録である。

 

著者は、1956生、外語大学スペイン語科卒業、

ボリビアアマゾン流域でのODAの鉄道建設事業に通訳として参画。

 

この本は1986年春から書き始め、今年出版にこぎつけたのだが
出版までに36年の歳月を費やした。

本人が残した記録や記憶、当時仕事に従事した人に、インタビューしながらまとめたもので、
中にはすでに亡くなられた人が、何人かいた。

 

22年ぶりに現地を訪問した著者が見たものは、
メンテナンスも良いのだろうが、
びくともしない、線路と橋梁に日本の技術のすばらしさだった。

 

付録に、ボリビアの運輸通信大臣アンドレス・ペトロヴィッチの

鉄道工事の竣工式の時の祝辞が掲載されている。

 
下記に一部抜粋を掲載する。
「この鉄道工事は、皆様の崇高な精神が生み出したものです。
援助金は55億円、延べ325メートルにおよぶ9つの橋梁建設がありました。
この工事は我々がいなくなっても、不朽の作品として残るものです。

これは、日本国民の隣人愛が結実したものです。
隣人愛とは人類が連帯するための崇高な精神、協力への本能的行動、
善を行う強い欲求でもあります。
高邁なる精神とは人類愛のことです。
高潔な精神と人々への愛に満ちた寛大な行動こそが隣人愛であり、
日本国民が私たちに自ら指示してくれたところのものです」

また、開発には環境破壊、貧富の差の拡大など、
負の側面が存在することも否定できないが、
アマゾンからの告発の文書も(msnジャーナル)付録に載せてあり、
単に自慢話に終わらない、筆者の良心を感じた。