今年の夏はコロナと猛暑で、さんざんですが、
皆さんお元気でお暮らしでしょうか?

従来ですと、「栞の会」は、8月と12月は休会です。
先月会員の方から、「8月は開催しないのでしょうか?」
とご意見をいただきました。

で、8月は色々と計画がある方も多いかと思いますが、
ご都合のつく方だけでも、集まりましょう、ということになりました。

今月は、管理人も所用で参加できず、残念でしたが、
5名の方が参加してくださいました。

Nさんからは 、欠席原稿が届いています。
まずは、Nさんの原稿から紹介します。

涅槃の雪 (光文社文庫)
西條 奈加
光文社
2014-11-28
紹介者:A.Nさん

 水野忠邦の天保の改革時の江戸の様子を描いた作品です。

 北町奉行、遠山の金さんこと、遠山左衛門尉遠山景元の配下で働くことになったばかりの、
吟味方与力高安門佑が、桜がほころびかけた頃に降ったボタン雪の中、
金杉橋の袂で、食べることもままならぬ極貧農家出の隠売女、
雪花に出会うところから物語は始まります。

 水野が次々に発布する取り締まりを、遠山と共に苦い思いで実行する、
鷹のような鋭い顔をした大男の門佑が、
橋のたもとで雪花に一目ぼれをし、身分制度厳しい、
当時では考えられない夫婦になるまでを
水野が失脚するまでの時空に合わせて描かれます。

 「涅槃の雪」とは雪花の弟が、絶食しながら向かった涅槃(あの世)。
そこは白一面の雪景色だろうと姉の雪花が思っているところです。
雪景色の時の出会いで始まり、子供が生まれようとする幸せいっぱいの門佑夫婦が、
花弁のように落ちてくる雪を眺めて弟を思うところで終わります。

 勿論、フィクションのところはあるのでしょうが、
時代背景が理解でき、テレビで放映された金さんが身近になって、
なかなか楽しく、ほのぼのとしたいい作品でした。

紹介者:A.Nさん


 450ページにわたる厚い、最高裁判事にまでなった
「お気の毒な弁護士」の聞き取りという形で進められる本です。
個人の来歴はさることながら、法曹界と法律満載の書物です。

 友人が厚さなどものともせず読める実に面白い本だと、
しつこく薦めるので読み切りました。

 法廷のやり取りの細かな所は飛ばし読みしましたが、
法曹界の実態、法律が作られたり改正されたりするルートと手続きは
おおよそ知ることが出来、新しい発見でした。

 信州の貧困家庭に育った著者が、貧しくとものびやかな小学生時代から
上田高校時代を経、経済・社会科学の殿堂の一橋大学法学部入学、
三菱銀行に入行したものの約1年で辞職、
その時はすでに結婚していましたが、ぶらぶらする毎日。
司法試験が勉強だけで合格できることを知り、
1年突破計画を立て猛勉強、合格。

 弁護士になるという報告を郷里のお世話になった和尚に行ったら
「お気の毒な弁護士かあ!」と言われ、
その時にはどういう意味なのか分からなかったそうです。

 「司法試験合格の瞬間に、君は悩みや問題を抱えた人たちのために、
働き続けなければならないという道を選んでしまった。お気の毒さま。」
ということだったと後で知ります。

 我が強い人。固定観念や偏見がない人。自由な人。はっきりしている人。

 「法律論を勉強し過去の判例を読んで考える」のではなく
「今生きている人の幸せになるために法律はある」と彼は言います。
それには机上の司法試験の勉強だけではだめ、
世の中を知る体験がないといけないと。

 彼が最高裁判事の時の案件
(預貯金の遺産分割性・再婚禁止期間事件・夫婦同氏強制違憲訴訟等)が載っていて、
そのところだけでも、皆様お読み下さい。
常日頃、高裁まで来たのに最高裁でひっくり返される案件が多く
残念に思うことが多々ありますが、
こんな方が判事になることが許される法曹界なら、
日本も捨てたものでないと思うはずです。

月夜の森の梟
小池 真理子
朝日新聞出版
2021-11-05
紹介者:A.Nさん

 副題にあるように、現在70歳の作家・小池真理子が、
同じく作家のご主人を癌で看取った時のことを書いた、
号泣と深い悲しみと鎮魂の書です。

 朝日新聞に連載されましたから、すでにお読みの方も多いと思います。

 名作というより、名品だと思いました。
家で癌に侵されたご主人を看取るというのは大変な苦しみだったと思いますが、
奥様にこんなに素晴らしい作品を残すことをさせたご主人の死は宝です。

 同業者同志がめぐり逢い、愛し合い、子供は作らないということで最初は籍も入れず、
この年齢にしては新しい形の事実婚をする。
軽井沢で自然を楽しみながら、共に語り合い、飲み明かし、猫と暮らす。
そんな彼が癌を宣告され、家で最期を迎えたいと言う。
弱っていくご主人を目にし、常日頃かっこいいことを言っていたのに、
死にたくなくなる姿を目にする。

 生前の彼を何かにつけ思い出し、ご自分の悲しみを自然描写と共に昇華させる。
全部で50の小品ですが、すべて詩になっており個人の思いを越えた普遍的な愛の歌です。

存在の美しい哀しみ (文春文庫)
小池 真理子
文藝春秋
2013-02-08
紹介者:A.Nさん



 「月夜の森の梟」が素晴らしかったので読んでみました。
著者には「無伴奏」「水の翼」「瑠璃の海」「水無月の墓」
「望みは何と訊かれたら」「神よ憐みたまえ」など素敵な題名の作品が多いです。

 チェロ奏者をめざす我儘な男のもとに嫁ぎ、
早めの予期せぬ妊娠をしてしまったために旦那に疎まれ、
プラハへ旦那だけ留学。
婚家で男の子を生んで、他の優しい男性に心を奪われ妊娠してしまい、
婚家を身一つで追い出された母親。
彼女の周りの人7人を主人公に立て、それぞれの立場で描いています。
従って、重複も多くなっているので、ひとつずつ日を置いて読むのがいいかもしれません。

 プラハ・ウィーン、クラシック音楽・アンナカレニーナの小説などを素材に、
あくまでも格調豊かにハイソに、
「赤ん坊の時婚家を追い出された母に会うことなく育ち、
父と同じチェリストを目指す青年」の存在を美しく悲しく書こうとしています。

 素材が陳腐だけど「美しく書かれているんじゃないですか」としか言いようがないです。
主人公がみんな自分の運命に納得して生きているので共に悲しみようがない。
私の読み取りが浅いのかもしれませんが。

大雪物語 (講談社文庫)
藤田 宜永
講談社
2019-12-13
紹介者:A.Nさん



 ご主人の本も読んでみようと図書館に行きましたら、
多作の方らしくずらりと並んでいまして、まずは、字の大きいのを借りてみました。

 201×2月に関東甲信越から東北にかけて記録的な大雪になり、
長野県K町も観測記録を上回る豪雪となりました。

 道路がすべて遮断されたとき、人々はどんなことに巻き込まれ、どんな行動をとるか?

 K町を舞台に、性別も年齢も職業も生まれた境遇も全く違う6人の主人公を登場させ、
彼らがどう非常事態を乗り切るかを描いています。面白かったです。

 人物が生き生きと描かれ、解決方法も様々、
自分の過去と折り合いをつけ、皆ほのかな希望を見出す結末になっています。

 なかなか力量の在る作家なのだと思いましたが、
そう思うのは多分私と彼は同じ世代だからと思います。
彼は私より一つ年下、正当な文章、文体、構成。
読者を勇気づける文学。
私はもっとはみ出した書き方をする作家と思い込んでいました。
一冊読んだくらいで決めつけるのはいけないことですが。 

紹介者:M.Hさん


カード師
中村文則
朝日新聞出版
2021-05-07
紹介者:M.Hさん


太平記 2022年7月 (NHKテキスト)
安田 登
NHK出版
2022-06-27
紹介者:M.Sさん


紹介者:M.Sさん


安田登 特別授業『史記』
安田登
NHK出版
2020-02-27
紹介者:M.Sさん

 NHKEテレの「100de名著」を時々見ている。
時間的制約もある為、ゲスト講師の話をもっと聞きたいと思うことが多い。
そういうときはテキストを購入する。
テレビの内容以上に中身の濃い話がまとめてある。

             

 安田氏は下掛宝生流ワキ方能楽師だが、その他にも多角的な活動をしており、著書も多い。
20195月に放映されたNHK100de名著」の「平家物語」以来、
ファンになってしまった。

 今回は、彼が講師となった上記の3冊を紹介。
3冊とも、膨大な内容を分かりやすく、要点を選び、示唆に富んだ解説を行っている。

 


ドリトル先生航海記 (新潮文庫)
ロフティング,ヒュー
翻訳:福岡伸一
新潮社
2019-06-26
紹介者:M.Kさん

紹介されている岩波少年文庫 は 福岡伸一訳ではなく井伏鱒二訳なのです。

井伏鱒二の訳は読んでいません。

福岡さんは可能な限り平明に、自然な流れを保って、端正に

やさしく訳されたそうです。
古めかしい言い方はもう少し軽やかに、
一人称の「わし」は「わたし」に直したとのことです。

 

とにかく読んでいて楽しく、この暑い夏をのりきるのに、

いい本ではないかと思います。
図書館で借りずに買いました。


最期まで在宅おひとりさまで機嫌よく (単行本)
上野 千鶴子
中央公論新社
2022-06-09
紹介者:M.Kさん


南米「棄民」政策の実像 (岩波現代全書)
遠藤 十亜希
岩波書店
2016-05-19
紹介者:S.Mさん


どっこい生きてる90歳 老~い、どん! 2
樋口 恵子
婦人之友社
2022-04-25
紹介者:T.Yさん


紹介者:T.Yさん


紹介者:管理人A


以前に知人よりもらった本。
長らく放置していましたが、今回読んでみました。
朝日新聞社が「朝日ぎらい」を出すのだから、どんな本?
と思ったのですが、こんなにタイトルと内容が違う本も初めて。
「新しいリベラルの姿を描いた」ということで、
色々な角度からアプローチするのだが、
そのアプローチの方向が、あまりのも多角的で、
私の頭では、追いきれない。
例えば、テオクラシー、アリストクラシー、リベラルデモクラシー、
リベラリズム、リバタニア、サイバーリバタリアン、
リベラル部族、保守派部族、リベラル共和国。
数ページ読んだだけで、これだけの単語が出てくる。
使われている単語を、ここに書きだそうとすれば、
膨大な量になり、ここに書ききれるものではない。
アプローチの仕方は、面白いと思うが、
もう少しシンプルに書いてほしいなぁ、というのが本音。

閉鎖病棟(新潮文庫)
帚木 蓬生
新潮社
2014-11-14
紹介者:管理人A


心に悩みを抱えた患者が暮らす病院を舞台に、ドラマが繰り広げられる。
社会的には、許されない行為を犯したために、治療を受けているが、
心の奥を覗くと、安易にその行為を非難することはできない。
読み進むにつれ、胸が痛くなり、涙なしでは読み切れない。
是非、皆さんに読んでほしい。

紹介者:管理人A



帚木蓬生の「閉鎖病棟」を映画化したもの。
結構、評判になった映画なので、観たかたも多いのでは。
私は、今回、Amazon  の prime videoで観ました。
多少設定は違うものの、原作を損なうものではない。
こちらも、涙なしでは、観ることができません。

後悔病棟 (小学館文庫)
垣谷美雨
小学館
2017-04-28
紹介者:管理人A


これは、「栞の会」の会員のT.Mさんからお借りしたもの。
「栞の会」では、垣谷美雨さんの本はよく紹介され、
読んでいる方も多いです。
主人公は、空気を読めない女医が、庭で聴診器を拾うが、
その聴診器は、患者の声を聴くことができる不思議な聴診器。
聴診器で、末期がんの患者の声を聴きながら、
患者に寄り添い、患者の今までの人生を肯定する。
今回初めて読みましたが、作者の心の優しさに触れることができる、
読後感さわやかな本でした。