暖かな日が続いていますね。
今年は春が早いようで、昨日はサクラの開花宣言も出ました。
史上1位タイの早さのようです。
さて、今日の「栞の会」のご報告です。
増補 本屋になりたい ――この島の本を売る (ちくま文庫)
宇田 智子
筑摩書房
2022-07-11
紹介者:M.Sさん

「なにかしたいとおもっている人を、本を売ることで応援したい」
「本があって、人がいる場所をつくりたい」

新刊書を扱う全国規模の大型書店を辞めて、沖縄県那覇市で小さな古書店を運営する著者。
当初は沖縄に関する古書を専ら扱う。(後には一般の図書も扱うようになるが。)

古書店経営、古書の売り買い、店の両隣を含む商店街の人々、いろいろな出会いがある。沖縄の小さな店を基点に、本や人に対する思いがつづられている。

最初の出版(2015年)の後の反響や活動をこの増補版に追記。

すべての、白いものたちの
ハン・ガン
河出書房新社
2019-02-01
紹介者:M.Sさん

 著者は1970年韓国生まれ。1994年作家デビュー。日本語訳の本も複数あり。

  「白いものについて書こうと決めた。春。

そのとき私が最初に行なったのは、目録を作ることだった。
おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、なみ、こめ・・・。」

 若かった母が、たった一人で初産をし、その子は生まれて2時間後に亡くなった。
生と死の境を短時間ながら行き来したその子・・・
その姉の死の跡地に生まれた自分。姉と自分の生が重なる想い。

夏から冬への半年間を過ごしたポーランドのワルシャワ。
ナチスによって徹底的に破壊され、戦後、元の姿に再建されたワルシャワの街。

上記の背景の上に構成された60を超す短編(4行~2,3頁)の随想であり、ポエムでもある。
不思議な魅力を感じる書である。

「 息
寒さが兆しはじめたある朝、唇から漏れ出る息が初めて白く凝ったら、
それは私たちが生きているという証。
私たちの体が温かいという証。
冷気が肺腑の闇の中に吸い込まれ、体温でぬくめられ、
白い息となって吐き出される。
私たちの生命が確かな形をとって、ほの白く虚空に広がっていくという奇跡。」

「 ハンカチ
混みいった住宅街のビルの下を歩いていた晩夏の午後、彼女は見た。
一人の女が三階のベランダから誤って洗濯物を落としたのを。
最後にハンカチが一枚、とてもゆっくりと落下していった。
翼を半分たたんだ鳥のように。落下地点をおずおずと見定めている魂のように。」

 

紹介者:M.Hさん


青木きららのちょっとした冒険
藤野可織
講談社
2022-11-09
紹介者:M.Hさん


琥珀のまたたき (講談社文庫)
小川洋子
講談社
2018-12-14
紹介者:A.Nさん

 キモイ話が多い作者の本のなかで題名を見て、
これは綺麗な話に違いないと選んだのに、なんと「琥珀」とは主人公の左目のことでした。
「琥珀」に惑わされ「またたき」に気を付けなかった私がうかつだった、
そう思いましたが、ところがどっこい。

 作家に求められる必須条件が、構成力(緻密に計算できる頭脳)、
想像力(柔軟で自由に発想できる心と頭)、
筆力(言葉の知識とそれを取り出すセンス)だとすると、
この本は、小川洋子が、その3点を如何なく発揮した最高傑作だと思えた本でした。

 話の内容は、肺炎で死んだ4人兄弟の一番下の女の子を、
野犬にかみ殺されたと信じて疑わない尋常と思われないママが、
残された家族(長女=オパール11歳・長男=琥珀8歳・次男=瑪瑙5歳)を
古い別荘に閉じ込め、外界との交渉を全く断ってひっそりと暮らすことを強要する、
その間の68か月の子どもたちの日常を描いています。

 閉ざされた空間はまさに作者の想像力が如何なく発揮される場所でした。
切り取られた空と土、その間を行きかう風や雨などの自然の中で、
庭の植物たち、そこに飛び交う昆虫や小動物たちを友とし、
3人はママの言うことをしっかりと守り、ママを一番大切に考え、
楽しい毎日が送れるよう力を合わせてひっそりと暮らします。
この彼らの健気さは琥珀がアンバーという名の大人になっても続きます。
作者は子どもたちの世界を広げるために、
ママが職場から連れて来たロバやパパの残した独創的な図鑑や
瑪瑙の耳に住む教師を登場させていますが、
そこで繰り広げられる彼らの日常は、作者独特のキモイ発想も加わり、
不可思議で魅惑的なおとぎ話の世界を呈します。
彼らが行うごっこ遊びの何と楽しそうなことか?
彼らが住む古く汚い居住空間が何と美しく輝いていることか?
でも彼らの世界の底には本来ならば彼らが意識しなければならない監禁のつらさ、
悲しみが沈着している。
私は「この3人どうなっていくの?」とドキドキしながら、
広がるばかりの作者の想像が織りなす狂気すれすれの幻像劇を楽しみました。
作者の筆力だと思います。

 やがて琥珀が左目の奥の層をまばたくと、死んだ妹が現れます。
それを図鑑のページの中に他人も見られるように映し出すことに彼は成功し、
ママも含め4人は妹との再会を喜びます。

 その一方、子どもたちは少しずつ成長し外の世界に関心を寄せるようになっていきます。
その外界への窓の扉は、ママに内緒で突然訪ねて来たジョーの登場でした。
子どもたちはジョーの訪れを心待ちするようになり、
やがてジョーへ関心を寄せていくオパール、そんな二人に心のざわめきを感じる琥珀。
大人へと成長していく子どもたちの様子と心象を
作者はさりげない表現でじんわりと伝えていきます。

 しかし、作者はただ読者におとぎ話の劇場を提供するだけではありませんでした。
各章とも、救出されて大人になった琥珀=アンバーが芸術の館で暮らす日常から始まり、
過去にさかのぼって閉じ込められていた子供の頃の様子を描くという手法を採っています。
十分に読者を現実の時間に引き戻す構成にしています。
子どもたちが発見される時の様子も、
琥珀が一人取り残される緊迫した静かな劇場空間(幕が下りていく表現が見事です)と
救出された時の新聞記事、二つを用意しています。
荒唐無稽なおとぎ話を描くだけの作家でないことが分かります。小川洋子万歳です。

出口なお (朝日選書)
良夫, 安丸
朝日新聞社
1987-05T
紹介者:A.Nさん


 朝日新聞の「耕論」という社会評論のページで、明治期の女性の置かれた悲惨な状況が
よく表されている本だと紹介されていたので手にしました。
著者は1934年生まれの社会学者でこの本の初出は1987年という古い本です。

 金光教(作家、小川洋子は信者)・天理教・黒住教など
幕末にたくさんの神道系新宗教が興りましたが、
明治25年に出口なおという京都綾部市に住む貧しい老婆が神に憑依し、大本教を興しました。
そして大本教はやがて最大の宗教団体となって、
既成の神道と相入れないとされ、政府から2度にわたる弾圧を受けますが、
1935年の2度目の弾圧(この時は出口なおはすでに死亡)で壊滅、
それらの様子を書いた高橋和巳の著書「邪宗門」を
大学在学中に読んだ記憶がよみがえりました。
「高橋和巳」懐かしいです。
その当時にどんなに流行っても次の時代に読み継がれていく本はほとんどゼロに近い、
つくづくそう思いました。

 新宗教の中でも大本教は「筆先」という出口なおが記述した文章が残され、
娘婿の出口王仁三郎がこのたどたどしい平仮名の記述を整理しているため、
他の宗教と違い研究対象に堪えうる宗教と思われ沢山の研究の著述があるようです。

 筆先を丁寧にたどるというこの著書のなかで私が理解できたことは、
大本教がほかの新宗教と違って、病気を治すとか心を癒すとかいう民間宗教にとどまらず、
「みろくの国=神の国」を説く世直しにまで思想が及んでいたことでした。
文字も知らない赤貧の生活でただ働くだけの田舎のばあちゃんが
ある日神の憑依を経て、時代をぶった斬り、
壮大なスケール=世界宗教となり得る要素を持った神学を打ち立てていくことに驚きました。

 他にも書きたいことは山とありますが、一つだけ。
この本の最後のほうに、出口なおの写真が1ページを使って大きく取り入れられています。
彼女の顔や目や姿、たたずまい等を描写しながら著者の書く学術文は
すでに追悼文、名文だと思います。
「無学文盲で、何のとりえもない老婆だったなおは、
自らのすさまじい困難にたちむかってそれに耐えぬく強靭さだけを
アルキメデスの始点にして、近代化していく日本社会をその全体性において告発しぬいた」
とあります。
著者は出口なおを限りなく尊敬している、そう思いました。

斜陽
太宰 治
2012-09-27
紹介者:A.Nさん




 前回の栞の会で再読の紹介がされ、私も読んでみることにしました。
太宰は今なお「桜桃忌」とかいって死をしのばれる作家、
時代が激変しても生き抜いている作家と思われます。
同時代の巨匠・川端康成や三島由紀夫でさえ、
若者の墓参を受けるなどというニュースは見たことがありません。
私は彼の作品に引っかからなかったために、
本書は、前に一度読んだものの覚えているのは冒頭の、お母様がスープに「あ。」と
幽かな叫び声をお挙げになる場面だけ、新たに読む本となりました。
70年近く前の作品なのにスーッと読めました。
それなのに重要なことが沢山詰まっている厚みのある作品だと思いました。
もっとシンプルな中身だった気がします。

 この頃の文科系の学生たちは身分の違いを肌で感じる時代にあって、
左翼運動に走らない者は、太宰のような荒れた非生産的なデカダン生活をおくっていた、
このことに驚きました。勿論みんながそうではなかったでしょうが。

 前掲の「出口なお」も、落ちぶれた身を嘆き酒に浸って
働かない主人に悩まされ続けました。
こんな男がこの頃は沢山いて(今もいるのでしょうが)、
家族をさらに貧乏にしていき、それでも妻たちは夫を受け入れ健気に働きました。
健気になれない女たちはどうなったか?発狂でした。
「出口なお」にはそんな人たちが数多く掲げられています。
憑依というのも発狂のひとつなのかもしれません。

 没落を静かに受け入れる美しい母を失い、
貴族というレッテルから離れたいと自殺した弟の直治を失い一人残されたかず子。
彼女はしょうもない男たちをしり目に、
古い道徳を破ってシングルマザーの道を選ぶ果敢な女性に成長していました。
彼女に太宰は次の時代の夢を託したのでしょうか?
自分は投身自殺をして。

紹介者:A.Nさん



 短い本は読んでもすぐ忘れてしまう私、
そんななかで記憶として残っていることだけが感動したことになるのではないか?

 私もAOさんと同じく伊坂幸太郎の「いい人の手に渡れ」はほのぼのと記憶に残りました。
一番最初の掲載の作品だからですかしら?

 あとは、筒井康隆の「花魁櫛」。
作者が私より年齢が上なこともあり、黒髪に不気味さを漂わせるのは
前時代的で平凡な書き方かもしれませんが、男と女の恋の駆け引きを楽しめました。

 尾崎世界観の「バイバイ」が、人間のどうしてもある種の傾向に陥ってしまう姿が
描かれていて面白かったです。
 綿矢リサや金原ひとみになるともう彼女たちについて行けない。
話の内容は記憶にないのに、こんなところだけが今でも頭に残っています。

編めば編むほどわたしはわたしになっていった
三國万里子
新潮社
2022-09-29
紹介者:A.Nさん


黄色い家
川上未映子
中央公論新社
2023-02-20
紹介者:A.Nさん


動物農場: おとぎばなし (岩波文庫)
ジョージ オーウェル
岩波書店
2009-07-16
紹介者:K.Oさん

1945年発表

当時のスターリン体制下のソ連で実際に起きた出来事を動物になぞらえて
パロディー化した風刺小説。

荘園農場にいる動物たちは「イギリスには自由な動物は1匹もいない、
動物の一生は惨めな奴隷の一生だ。
人間から解放され自分たちの農場を作ろう!」と蜂起し、
農場主を追い出し「動物農場」を打ち立てる。

動物たちは「イギリスのけものたち」という歌を口々に歌い
「よつあしいい、ふたつあしだめ」をスローガンに「七つの戒律」を大きく壁に書く。

その中から二匹の賢い豚が頭角を現し、
一つの完全な思想体系を「動物主義」として打ち立て、
他の動物たちを支配し始める。

二匹の豚は権力争いをし片方の豚が追放される。

残った豚のナポレオンは七つの戒律も自分たちに都合が良いように書き加え、
利権を一人占めし、人間たちと手を結び、ついには2本足で歩き始める!
豚と人間の顔の見分けがつかなくなり他の動物たちは衝撃を受ける。

 

副題をおとぎばなしとしながらハッピーエンドで終わらず善が負け悪が栄える話。

権力を持ったものが自分たちに都合の良いように戒律(憲法)をねじ曲げ、
とんでもない方向に向かおうとしている今の世相を思う時、
この本が問いかける意味を強く感じずにはおれませんでした。


「がまん」するから老化する (PHP新書)
和田秀樹
PHP研究所
2011-04-15
紹介者:K.Oさん

またまた和田先生の信奉者の友人から回ってきた本。

がまんや無理なダイエットは老化をかえって進めてしまう。
食べても太らない体に若返らせる方がはるかに老化予防に役立つし健康にも良い。

食べても太らない体とは筋肉をつけろということか。
出来ることならそんな体を手に入れたいものですが。

脳を使うことがもっともシンプルな老化予防対策とありました。

生涯現役とは一生働くという意味だけでなく、
生涯現役の消費者である、という意味もあるという文にはとても共感を覚えました。

やはり貯蓄に励むより、生きたお金の使い方が大事、ということでしょうか。

読んだ本をまとめて栞の会で発表すること、
身近な素敵な同窓生の先輩をお手本に過ごすこと、これが目下の私の老化防止法です。



ロボット (岩波文庫)
カレル・チャペック
岩波書店
1989-04-01
紹介者:S.Mさん


紹介者:M.Kさん


紹介者:M.Kさん


おらおらでひとりいぐも (河出文庫)
若竹千佐子
河出書房新社
2020-06-26
紹介者:S.Iさん


家康の母お大 (集英社文庫)
植松三十里
集英社
2016-10-07
紹介者:T.Yさん

コロナ日本黒書
佐藤 章
五月書房新社
2022-11-25
紹介者:管理人A

佐藤章氏が上昌弘氏にインタビューしたレポート

著者 佐藤章
ジャーナリスト、元朝日新聞記者
朝日新聞では、大阪経済部、アエラ、週刊朝日など
退職後は、慶応大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)
五月書房新社取締役

インタビュー
上昌弘(かみまさひろ)
1993年東大医学部卒
虎の門病院、国立がんセンター
2016年より 特定非営利活動法人 医療ガバナンス研究所理事長

コロナ対策の失敗点
①無症状の感染者が多数いるという、コロナの特徴をよく知らなかった。
②触感染ではなく、空気感染であることを知ることが遅くなった。

③アメリカでは、早くから、空気感染である論文が発表されていたにもかかわらず、
 医療技官が論文を読んでいなかった。
 アメリカでは、空気感染と分かっていたので、何十億という予算を組んで、
 学校に空気清浄機を設置した。

④中国の武漢から帰国した人の中に、無症状の感染者が多数いたにも拘わらす、
 ダイアモンドプリンセス号の感染者が日本初めて、という対応だった。
 ダイヤモンドプリンセス号で感染者、死亡者が多数出たのは、
 ダクトから、排出されるウィルスのためだということ、
 また、このことから関係した医者は空気感染であることを、認識していた。

⑤医療と隔離を一緒くたに対応した。
 感染症対策の基本は「検査と隔離」で、世界の常識となっているが、
 日本では、無視された。
 政府は空気感染ということを認めず、原因は接触感染ということで、
 点と点を結ぶ抑制的PCR検査を繰り返すことで、無症状の感染者を野放しにした。
 さらに、軽症の感染者、無症状の感染者を病院に隔離することで、病院がパンクした。
 隔離と医療切り離して、保健所を通さないで、
 一般の医療機関で受診できるようにすれば、病院がパンクすることはなかった。

 韓国では、大々的なPCR検査を実施し、コロナを抑え込むことに成功した。
 空気感染と分かれば、濃厚接触者に対する積極的疫学調査では、
 不十分だった。

 政府が、接触感染ではなく、空気感染となかなか方針転換しなかったのは、
 自己保身から、方針変更しなかった
官僚の在り方に問題がある。

対策
①換気をする
②追加接種をすることで、重症化が8割減った。
 追加接種で免疫ができていくことがわかったので、
 定期的に追加接種を繰り返し、乗り切っていく。

 

 

 

マクロプロスの処方箋 (岩波文庫 赤 774-4)
カレル・チャペック
岩波書店
2022-08-12
紹介者:管理人A


プルス家とグレゴル家で100年以上も相続をめぐって、裁判が続いている。
裁判の判決が出る日、突如、美貌のオペラ歌手エミリア・マルティが現れる。
なぜかエミリア・マルティは、誰も知らないこの財産の遺言書のありかを知っている。
なぜ、この美貌のオペラ歌手が100年の昔の遺言書について知っているのか。
徐々にこの謎が解けてくるのだが、なんと、
マクロプロスの処方箋により300年以上も生き続けていたことが判明する。
老いるということは、どういうことか、
永遠の命を手に入れたら、どうなるのか?
という哲学的な命題を提出した戯曲。


数日前は、今年の冬初めての雪が降りました。
大雪警報が出ていましたが、さほど積もることもなく、 ほっといたしました。
今日は日差しは明るいですが、風が冷たい1日です。

さて、今月のご報告です。
デクリネゾン (ホーム社)
金原ひとみ
集英社
2022-08-26
紹介者:M.Hさん


JR上野駅公園口 (河出文庫)
柳美里
河出書房新社
2017-03-03
紹介者:M.Hさん



おばさん四十八歳 小説家になりました
植松 三十里
東京堂出版
2013-12-10
紹介者:M.Hさん

紹介者:M.Hさん


ひと
小野寺史宜
祥伝社
2018-04-10
紹介者:A.Oさん

紹介者:A.Oさん


泣くな研修医 (幻冬舎文庫)
中山祐次郎
幻冬舎
2020-04-02
紹介者:A.Oさん


香君 上 西から来た少女 (文春e-book)
上橋 菜穂子
文藝春秋
2022-03-24
紹介者:A.Nさん


香君 下 遥かな道 (文春e-book)
上橋 菜穂子
文藝春秋
2022-03-24
紹介者:A.Nさん


どろどろのキリスト教 (朝日新書)
清涼院 流水
朝日新聞出版
2022-12-13
紹介者:A.Nさん


星々たち (実業之日本社文庫)
桜木紫乃
実業之日本社
2016-10-06
紹介者:A.Nさん


 9編の短編で出来ていますが、繫っています。
身持ちの悪い咲子という女性が、父親のいない子供を産み母親に預けて
夜の稼ぎで食いつなぎ、男も点々とする。
彼女が産んだ子供、千春(細いのに嫌に胸が大きいことが強調され描かれている)が
少々魯鈍(?)でこちらは結婚して子供を産むものの、
育てるのが嫌で出奔し母親と同じ生き方をするしかない。     

 この母娘の一生を、9編にそれぞれ別の主人公を登場させ、
必ずこの母と娘を関わらせ、最後は千春の娘のやや子(良い結婚が出来そうな気配あり)
という女性に行きつき終わります。

 少し魯鈍っぽい千春がいきなり詩を書く女性として登場してきたときは驚きました。
その詩がエロティシズムぷんぷんの、でも経験に裏打ちされたせいか、
なかなか素晴らしい詩になっています。
彼女は結局詩の師匠を誘惑し、やがて交通事故に会い、
実に哀れな末路となるのですが、著者はみんなみんな輝く星だ、そう言っています。

蛇行する月 (双葉文庫)
桜木 紫乃
双葉社
2016-06-16
紹介者:A.Nさん


 北海道の高校でクラスが一緒だった5人の女性と、
そのクラスの中の1人に夫を寝取られた和菓子屋の女主人を登場させ、
25年間の、どちらかというと冴えない、
不幸な部分を抱えた彼女たちの軌跡が描かれています。
桜木紫乃さんは、不幸な人を書くのが好きなのでしょうか?

 その中での主人公は、和菓子屋の女主人から夫を奪い出奔した順子です。
その男は20歳も年上でした。
順子を、友人たちはいつも気に掛け、噂をしたり、
電話をしたり、尋ねたりします。
そして、極貧の生活なのに、順子がいつも幸せそうにしているのに戸惑い、
自分の求める幸せがおかしいのかと疑ってしまいます。

 順子は不幸のうち癌になり、病院にもかかることが出来ず死んでいきますが、
瀕死の順子に会った友人が、ほかの友人とかわす言葉
「順子幸せなんだねー。」「もちろんー。」
の言葉がこの本の最後のページですが、
著者はその後、こう続け、本の幕を下ろします。

「湿原を一本の黒い川が蛇行している。
うねりながら岸辺の景色を海辺へと運んでいる。
曲がりながら、ひたむきに河口へ向かう。
みんな、海へと向かう。川は明日へと向かって流れている」。
ここで、「蛇行する月(人生とはそういうもの)」の月を出さずに、
連想させるようにしているのは素晴らしいと思いました。

 最後に印象に残ったところを一つ。
東京の順子たち夫婦のところに、元の妻が
「失踪届」と「離婚届」を持って現れる場面があります。
どちらを選んでもよいと言いながら、
元妻の心は離婚届を選んでほしいと思っています。
でも、元夫は離婚届を握りつぶし
自分が無くなってしまうほうの失踪届を選びます。
一度夫婦だった男女は同じ量の喜怒哀楽を分け合わなくてはならない、
元妻も自分と同じ量を、ひそかな元夫の抗議でした。
元妻はそこで気づきます。
自分は誰よりも自分が可愛かった、
守りたかったのは自身と自分の店だけだったと。

紹介者:A.Nさん


 日本のポピュラー音楽文化が世界的に見ても稀有な特徴がある、
それは「未熟さ」の文化だと。

 歌い手の成長過程自体が一つのパーフォーマンスとなって、
成長途上であるがゆえに可愛らしさ、アマチュア性、
未熟のほうが応援されたり、愛好されたりする。
なぜこうなっているのかを、社会学者である著者は、
書かれた雑誌や書物だけでなくインタビューも行い、
綿密に調査し、明治期からの音楽の流れをもとに、
「未熟さ」から日本近代を問い直そうとしています。

 出来たら、飛ばしながらでもいいので読んでいただくと、
私たちの昔聴いた音楽が生きた証としてよみがえり、
「そうだったよなあ」と懐かしく、
「そういうことだったのか」と納得、
自分がいかに作られた歴史の流れに沿って生きて来たかが実感できると思います。

 そうは言っても他の本を読むことで忙しい私たち、
私がかいつまんでお話ししましょう。

 明治初期、西洋音楽を取り入れることに文部省は必死でした。
楽譜をもとに、音階、発声方法やリズム等、
西洋講師を招いて学校教育に取り入れようとしました。
が、いくら子供の頭が柔らかいとはいえ、
三味線のもとでの小唄や常磐津、鼓のもとでの謡等に育った環境は、
簡単に彼らの頭脳を換えることを許しませんでした。

 そんな時、世俗的な下卑た子供向けの読み物の排除をモットーとして、
大正7年、鈴木三重吉は「赤い鳥」を発刊します。
「童心」をもとにそれまでにない純粋無垢な「未熟さ」の世界を
売り物とするこの本は童謡を生み出します。
後押ししたのはサラリーマンの誕生、マスメディア、レコード、
ラジオの発達、劇団や劇場の発達です。

 郷里を離れたサラリーマンが家庭を作り、
子どもを育てていくとき、何を規範とするか?
未熟なものへのまなざしと純粋無垢性への信仰です。
こんな時、本居宣長のひ孫の<長世>の登場。
毛並みによるお行儀の良さ、可愛らしさ、
地声で張り上げる黄色い声の何とほほえましく可愛らしいことか!
これが未熟な歌い手が現れる原点です。

 原点がもう一つ、関西の宝塚少女歌劇団です。
明治40年、鉄道経営を中心とした都市・住宅・観光地の開発のため、
荒涼とした宝塚の温泉の余興として始まった少女たちの唱歌や歌劇は、
サラリーマンとして新天地にやって来た新家族の心をとらえました。
子どもたちが宝塚の歌劇団員を自分と身近に感じられるよう、
プロとなってはいけない、未熟さを失わないお利口ちゃんにする、
このことが複数の戦争を経て新しい世の中になっても変わることはありませんでした。
変わるどころか、高度経済で手にした、
新しい住居で数々の見たこともない電化製品に囲まれ、
専業主婦の母親が作る料理を口に、茶の間でテレビを見ながら、
歌やドラマに興じる、典型的な家庭の理想像は未熟な文化を後押ししました。

 テレビ局は子どもたちをいつも頭におきながら、楽しく、身近に感じられるアマチュアさを失うことなく、規範を外れない行儀のよい歌やドラマをヒットさせていきました。

 とまあ、後はなべプロに始まる芸能プロダクション、ジャニーズ、グループサウンズ、
オーディション番組と群がる虚構の少女たち・・と続いていきますが、
未熟さは若さあってのもの、歌手たちが独り立ちするために、
可愛らしい王子様の衣装を脱ぎ捨て、プロの技量を積むと解散に追い込まれる・・
面白いからやはり一読をお薦めします。

 市町村のゆるキャラやニュースにまで登場するかわいいキャラクター、
筑紫哲也がニュース番組でマスコット人形を飾った時の幼稚性への批判はもう遠い昔のこと。
茶の間を失って時が経ち、私たちはそれぞれの部屋でテレビを見、
いや若者はテレビをほとんど見ず、スマホで娯楽を楽しむのだとか。
幼さをはぐくんできた文化が乗り越えられて、
柔でない文化のもと強い個人の出現を私は期待します。

掌に眠る舞台 (集英社文芸単行本)
小川洋子
集英社
2022-09-05
紹介者:A.Nさん

 著者のエッセイで、「書けない」という辛い気持ちを吐露した文章を2度ほど見ました。
訴えたいテーマがある作家はその点はあまり悩まないでしょう。
この著者のように、日常の場面を切り取って普遍的なテーマに近づける、
香り高く昇華され作家独自の文学作品を作り上げようとする作家は、
一つの作品を血の出る状況に身を置いて書いていくのだと思います。

 これは、著者の近著、20229月の発行です。
それぞれの「舞台」を設定した6つの小編から成り立っています。
金属加工工場で父親の退社を待つ父子家庭の少女が、
機械油でまみれた地面で、始めて見たバレエ「ラ・シルフィード」の世界にあこがれる。
大学受験のため泊った、昔女優だったといわれている伯母さんの1LDKのアパート、
そこで見た、食器に書かれた「ガラスの動物園」のセリフ、
上演されることのなかったその芝居のセリフを演じ続けるおばさんの姿。
「オペラ座の怪人」や「レ・ミゼラブル」・・・

 みな、ポピュラーな作品ですが、私が本物の舞台を見ていたら
もっとこの本は楽しめるのだろうと思います。
作者の作品を作り上げたいという思いばかりが印象に残った読後感になってしまいました。

 それにしても著者の作品にいつも思うことですが、
作品に取り扱う材料が尋常でないというか、普通が少ないというか、
完全でないものが好まれるというか、身体フェチというか、
そこに猟奇性、もっと素敵に努力して言い換えるとシュール性というようなものを
私は感じてしまいます。
この6編の中の「鍾乳洞の恋」の痛む奥歯の鍾乳洞のような窪みから白い虫が湧き出る話、
「無限ヤモリ」という少々不気味な不妊症に聞く温泉宿で、
主人夫婦が育てている一対のヤモリ、これを狭いところに閉じ込め、
身動きできない状態になったヤモリ夫婦はお互いが巻き付き口を開けられない状態になって、
飢え死にしミイラになる、これが子宝のお守りになる。

 勿論、それぞれ各編ともほんわかとした終わり方になっていますが、
怪奇小説のように思った私でした。
ことり (朝日文庫)

小川 洋子
朝日新聞出版
2016-01-07
紹介者:A.Nさん

  前回の栞の会で、いい本だというささやきを聞いて、手に取りました。

  開いたとたん小鳥たちの声が飛び出てくる、そんな素敵な本でした。
「この世は捨てたものではない、十分に生きるに値する」、
読後、そう思えた素晴らしい本でした。
身体フェチで猟奇性を思わせる作品が多い中で、一番好きな本となりました。
栞の会に感謝いっぱいです。
綿密に学習、調査された鳥たちが、著者のあふれんばかりの想像力で羽を広げ、
著者の天才的な筆力で大空を自由に羽ばたき飛び回って素敵な小説となった、
そう思いました。

 この本はまた、著者の想像力だけではなく、
生きとし生けるものへの深い慈愛がなければ書けない本だとも思いました。
不完全な姿であろうと話せなかろうと、死体であろうとすべてが愛おしい。

 「私のためになど、歌わなくていいんだよ。」
「明日の朝、籠を出よう。空へ戻るんだ。」
そして「大事にしまっておきなさい。その美しい声は。」
こう言って永遠の眠りに着いた静かな最後は圧巻でした。

 小川洋子は慈愛の作家か?まだまだ彼女の作品は読んでみなければなりません。

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)
川上未映子
講談社
2014-11-14
紹介者:A.Nさん


 スマホを開いたら、この著書が「世界で最も権威ある文学賞のひとつである
『全米批評家協会賞』の小説部門で最終候補に選ばれた」
と書かれてあるのを見たので図書館に駆け込みました。

 201111月初版の、題名から察しられる通りの恋愛小説でした、と思います。

 人前に出るのが苦手で会社勤めも苦痛になり退社、
フリーランスの校閲者をしながら自宅で引きこもりのように暮らす
地味な30代半ばの女性が主人公です。

 だんだん酒におぼれていき日本酒を魔法瓶に持って歩かなければならないほど。
そんな時いろいろな講座が開かれている会場に出かける気になり、
会場に行ってみたものの、申込者のあまりの多さに気分が悪くなって
トイレに駆け込もうとした時、初老の男性とぶつかります。
これが恋愛の始まりです。

 著者の得意とする微細で濃厚な描写、心の動きや身体の反応、
取り巻く空気の変化、さらに空気は広がって地面へ空に、
丁寧な描写が二人の距離を縮めていきます。

 最後はあっと驚きますので読んでください。
どうもこの著者は男女の関係より女同士の関係に心地よさを覚えている気がします。
ご自身は結婚なさってお子さんもいるようですが。

 夜の描き方が実に丁寧で素晴らしい。
題名から言っても、恋愛小説というより真夜中を賛歌する小説と言うべき本だと思います。

 こんな人と自然が融合した小説手法が西洋人の心をつかむとは?
しかも主人公と言い、恋人と言い、自分を表現するのが苦手な口数少ない
日本人らしい性格の持ち主(世界にはこういう人が多いのかしら?)、
なかなか近くなっていかない二人の関係のもどかしさ。
賞をとったら書評を見てみたいです。  

醜女の日記 (1958年) (新潮文庫)
シャルル・プリニエ
新潮社
1958T
紹介者:S.Mさん


紹介者:A.Oさん


この本は、20204月から20225月に、
メルカリの公式ツイッターで配信された21人のベストセラー作家による
ショートストーリーを単行本にしたものです。

 どの話でも「モノを捨てない」「フリマで譲る、譲り受ける」ことに関わって、
その人物の人となりや歴史が見えてきます。
どの話も読み終わると気持ちがほっこりして、癒されますが、
私が特に気に入ったのは、次の2点でした。

 

○伊坂幸太郎
 いい人の手に渡れ!
○西川美和
 ブルース・フォー・ポーギー


紹介者:Y.Oさん

紹介者:Y.Oさん


若冲 (文春文庫)
澤田瞳子
文藝春秋
2017-04-14
紹介者:Y.Oさん


紹介者:Y.Oさん


孤鷹の天 下 (徳間文庫)
澤田 瞳子
徳間書店
2013-09-06
紹介者:Y.Oさん


紹介者:Y.Oさん


紹介者:Y.Oさん


わが殿 上 (文春文庫)
畠中 恵
文藝春秋
2023-01-04
紹介者:Y.Oさん


わが殿 下 (文春文庫)
畠中 恵
文藝春秋
2023-01-04
紹介者:Y.Oさん


紹介者:M.Sさん

 中村哲医師が2019124日にアフガニスタンのジェララバードで銃弾に倒れてから、
3年が経ちました。

 この本は、NHKのラジオ番組「ラジオ深夜便こころの時代」に
出演された音声(19962009年の6回分=中村医師49歳から63歳まで)を記録したものです。
巻末には、彼の活動を背後から支えた「ペシャワール会」の会報も付記されています。

 この本のタイトルの由来は、「ペシャワール会報」
(81号、2004年、イーハトーブ賞受賞に寄せて)に寄稿された下記の言葉によるとのこと。
「『なぜ20年も働いてきたのか。その原動力は何か』としばしば人に尋ねられます。
・・・でも、返答に窮したときに思い出すのは、賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の話です。
セロの練習という、自分のやりたいことがあるのに、
次々と動物たちが現れて邪魔をする。仕方なく相手しているうち、
とうとう演奏会の日になってしまう。・・・」
紹介者:M.Sさん

 この本は最初1993年に出版され、2005年に文庫化。
そして著者の死後の2022年に「復刊」として第9刷が刊行されました。

 著者はあとがきの中で「私は一介の臨床医で、物書きでも学者でもありません」
と述べています。

しかし、“物書きや学者”の範囲を超えた深い知見と文章は、
実践の人というこれまでの私の理解をはるかに超えていました。

 現地の自然や人々への愛、そして活動の広汎さと困難さの描写、
その一方で、かの地に押しつけようとする“西欧文明”の傲慢さ、
“国際援助・復興支援・ボランティア活動”のご都合主義等への批判は痛烈です。

十日えびす (祥伝社文庫)
宇江佐 真理
祥伝社
2010-04-14
紹介者:M.Kさん


馬上の星  小説・馬援伝
宮城谷昌光
中央公論新社
2022-11-08
紹介者:M.Kさん


70歳からの老けない生き方
和田 秀樹
リベラル社
2022-03-22
紹介者:K.Oさん

平均寿命=男性 80,98才 女性 87,14
健康寿命=男性 72,14歳 女性 74,79

介護の必要がなく自立して生活出来る期間、
健康寿命が正に今の自分の年齢と知り愕然としました。

今はまだ生活していく上で不安を感じることはありませんが、
確かに動作は鈍くなり更に頭の回転は情けない状態で…

でも今出来ないことを嘆くのではなく
今出来ることを出来るだけ続けられるようがんばらなくては、と思います。

和田先生のおっしゃるように、記憶力より気力!をモットーに。

そのための心得が詰まっている本です。

著者は同じようなタイトルの本を沢山出版していますが、
冊は読んでおいて損はないと思いました。

紹介者:K.Oさん


紹介者:K.Oさん

この種の本も沢山出版されていて、共通するのはシニア女性、離婚歴あり、持ち家 です。
著者は地方新聞社勤務を経てフリーのライターに。

「節約は知的な行為」をモットーに、プチプラ生活を楽しみ、
美味しく健康に良い月1万円のレシピや服のリメイク、インテリアを紹介しています。

著者は清楚な美人で写真も美しく料理のセンスも良いと思います。

健康維持こそが一番の節約と心得、月5万円はさすがに無理でも、精神的にも豊かなていねいな生活を心がけたいと思ったことでした。
長女たち (新潮文庫)
篠田節子
新潮社
2017-09-28
紹介者:K.Oさん

小説新潮に掲載された3つの中篇が収められています。

親から頼りにされ本人も長女の責任感からそれに答えようとして家に縛り付けられている。
「お前が嫁に行ったら俺はどうすればいいんだ」と臆面もなく娘に依存する父。
認知症を患い幻覚、妄想に囚われる母。
ヘルパーが家庭に入ることもデーサービスに行くことも拒み、
ましてや施設に入れようとすると「私を見捨てるのか」と。

今や自分が娘ではなく、母の立場となっていることに当たり前のことながら気づき、
自分の娘たちはこの小説に出てくるような頼りになる娘でないと思うと、
あてにはするまいと強く思うのでした。

認知症についても良く調べられており、クールな篠田節子らしさを感じさせる一冊でした。

紹介者:T.Yさん

理由 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社
2004-06-29
紹介者:管理人A


コロナ日本黒書
佐藤 章
五月書房新社
2022-09-29
紹介者:管理人A
















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