今年は春が早いようで、昨日はサクラの開花宣言も出ました。
史上1位タイの早さのようです。
さて、今日の「栞の会」のご報告です。
紹介者:M.Sさん
「なにかしたいとおもっている人を、本を売ることで応援したい」
「本があって、人がいる場所をつくりたい」
新刊書を扱う全国規模の大型書店を辞めて、沖縄県那覇市で小さな古書店を運営する著者。
当初は沖縄に関する古書を専ら扱う。(後には一般の図書も扱うようになるが。)
古書店経営、古書の売り買い、店の両隣を含む商店街の人々、いろいろな出会いがある。沖縄の小さな店を基点に、本や人に対する思いがつづられている。
紹介者:M.Sさん
著者は1970年韓国生まれ。1994年作家デビュー。日本語訳の本も複数あり。
「白いものについて書こうと決めた。春。
そのとき私が最初に行なったのは、目録を作ることだった。
おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、なみ、こめ・・・。」
若かった母が、たった一人で初産をし、その子は生まれて2時間後に亡くなった。
生と死の境を短時間ながら行き来したその子・・・
その姉の死の跡地に生まれた自分。姉と自分の生が重なる想い。
夏から冬への半年間を過ごしたポーランドのワルシャワ。
ナチスによって徹底的に破壊され、戦後、元の姿に再建されたワルシャワの街。
上記の背景の上に構成された60を超す短編(4行~2,3頁)の随想であり、ポエムでもある。
不思議な魅力を感じる書である。
「 息
寒さが兆しはじめたある朝、唇から漏れ出る息が初めて白く凝ったら、
それは私たちが生きているという証。
私たちの体が温かいという証。
冷気が肺腑の闇の中に吸い込まれ、体温でぬくめられ、
白い息となって吐き出される。
私たちの生命が確かな形をとって、ほの白く虚空に広がっていくという奇跡。」
「 ハンカチ
混みいった住宅街のビルの下を歩いていた晩夏の午後、彼女は見た。
一人の女が三階のベランダから誤って洗濯物を落としたのを。
最後にハンカチが一枚、とてもゆっくりと落下していった。
翼を半分たたんだ鳥のように。落下地点をおずおずと見定めている魂のように。」
紹介者:M.Hさん
紹介者:M.Hさん
紹介者:A.Nさん
キモイ話が多い作者の本のなかで題名を見て、
これは綺麗な話に違いないと選んだのに、なんと「琥珀」とは主人公の左目のことでした。
「琥珀」に惑わされ「またたき」に気を付けなかった私がうかつだった、
そう思いましたが、ところがどっこい。
作家に求められる必須条件が、構成力(緻密に計算できる頭脳)、
想像力(柔軟で自由に発想できる心と頭)、
筆力(言葉の知識とそれを取り出すセンス)だとすると、
この本は、小川洋子が、その3点を如何なく発揮した最高傑作だと思えた本でした。
話の内容は、肺炎で死んだ4人兄弟の一番下の女の子を、
野犬にかみ殺されたと信じて疑わない尋常と思われないママが、
残された家族(長女=オパール11歳・長男=琥珀8歳・次男=瑪瑙5歳)を
古い別荘に閉じ込め、外界との交渉を全く断ってひっそりと暮らすことを強要する、
その間の6年8か月の子どもたちの日常を描いています。
閉ざされた空間はまさに作者の想像力が如何なく発揮される場所でした。
切り取られた空と土、その間を行きかう風や雨などの自然の中で、
庭の植物たち、そこに飛び交う昆虫や小動物たちを友とし、
3人はママの言うことをしっかりと守り、ママを一番大切に考え、
楽しい毎日が送れるよう力を合わせてひっそりと暮らします。
この彼らの健気さは琥珀がアンバーという名の大人になっても続きます。
作者は子どもたちの世界を広げるために、
ママが職場から連れて来たロバやパパの残した独創的な図鑑や
瑪瑙の耳に住む教師を登場させていますが、
そこで繰り広げられる彼らの日常は、作者独特のキモイ発想も加わり、
不可思議で魅惑的なおとぎ話の世界を呈します。
彼らが行うごっこ遊びの何と楽しそうなことか?
彼らが住む古く汚い居住空間が何と美しく輝いていることか?
でも彼らの世界の底には本来ならば彼らが意識しなければならない監禁のつらさ、
悲しみが沈着している。
私は「この3人どうなっていくの?」とドキドキしながら、
広がるばかりの作者の想像が織りなす狂気すれすれの幻像劇を楽しみました。
作者の筆力だと思います。
やがて琥珀が左目の奥の層をまばたくと、死んだ妹が現れます。
それを図鑑のページの中に他人も見られるように映し出すことに彼は成功し、
ママも含め4人は妹との再会を喜びます。
その一方、子どもたちは少しずつ成長し外の世界に関心を寄せるようになっていきます。
その外界への窓の扉は、ママに内緒で突然訪ねて来たジョーの登場でした。
子どもたちはジョーの訪れを心待ちするようになり、
やがてジョーへ関心を寄せていくオパール、そんな二人に心のざわめきを感じる琥珀。
大人へと成長していく子どもたちの様子と心象を
作者はさりげない表現でじんわりと伝えていきます。
しかし、作者はただ読者におとぎ話の劇場を提供するだけではありませんでした。
各章とも、救出されて大人になった琥珀=アンバーが芸術の館で暮らす日常から始まり、
過去にさかのぼって閉じ込められていた子供の頃の様子を描くという手法を採っています。
十分に読者を現実の時間に引き戻す構成にしています。
子どもたちが発見される時の様子も、
琥珀が一人取り残される緊迫した静かな劇場空間(幕が下りていく表現が見事です)と
救出された時の新聞記事、二つを用意しています。
荒唐無稽なおとぎ話を描くだけの作家でないことが分かります。小川洋子万歳です。
朝日新聞の「耕論」という社会評論のページで、明治期の女性の置かれた悲惨な状況が
よく表されている本だと紹介されていたので手にしました。
著者は1934年生まれの社会学者でこの本の初出は1987年という古い本です。
金光教(作家、小川洋子は信者)・天理教・黒住教など
幕末にたくさんの神道系新宗教が興りましたが、
明治25年に出口なおという京都綾部市に住む貧しい老婆が神に憑依し、大本教を興しました。
そして大本教はやがて最大の宗教団体となって、
既成の神道と相入れないとされ、政府から2度にわたる弾圧を受けますが、
1935年の2度目の弾圧(この時は出口なおはすでに死亡)で壊滅、
それらの様子を書いた高橋和巳の著書「邪宗門」を
大学在学中に読んだ記憶がよみがえりました。
「高橋和巳」懐かしいです。
その当時にどんなに流行っても次の時代に読み継がれていく本はほとんどゼロに近い、
つくづくそう思いました。
新宗教の中でも大本教は「筆先」という出口なおが記述した文章が残され、
娘婿の出口王仁三郎がこのたどたどしい平仮名の記述を整理しているため、
他の宗教と違い研究対象に堪えうる宗教と思われ沢山の研究の著述があるようです。
筆先を丁寧にたどるというこの著書のなかで私が理解できたことは、
大本教がほかの新宗教と違って、病気を治すとか心を癒すとかいう民間宗教にとどまらず、
「みろくの国=神の国」を説く世直しにまで思想が及んでいたことでした。
文字も知らない赤貧の生活でただ働くだけの田舎のばあちゃんが
ある日神の憑依を経て、時代をぶった斬り、
壮大なスケール=世界宗教となり得る要素を持った神学を打ち立てていくことに驚きました。
他にも書きたいことは山とありますが、一つだけ。
この本の最後のほうに、出口なおの写真が1ページを使って大きく取り入れられています。
彼女の顔や目や姿、たたずまい等を描写しながら著者の書く学術文は
すでに追悼文、名文だと思います。
「無学文盲で、何のとりえもない老婆だったなおは、
自らのすさまじい困難にたちむかってそれに耐えぬく強靭さだけを
アルキメデスの始点にして、近代化していく日本社会をその全体性において告発しぬいた」
とあります。
著者は出口なおを限りなく尊敬している、そう思いました。
前回の栞の会で再読の紹介がされ、私も読んでみることにしました。
太宰は今なお「桜桃忌」とかいって死をしのばれる作家、
時代が激変しても生き抜いている作家と思われます。
同時代の巨匠・川端康成や三島由紀夫でさえ、
若者の墓参を受けるなどというニュースは見たことがありません。
私は彼の作品に引っかからなかったために、
本書は、前に一度読んだものの覚えているのは冒頭の、お母様がスープに「あ。」と
幽かな叫び声をお挙げになる場面だけ、新たに読む本となりました。
70年近く前の作品なのにスーッと読めました。
それなのに重要なことが沢山詰まっている厚みのある作品だと思いました。
もっとシンプルな中身だった気がします。
この頃の文科系の学生たちは身分の違いを肌で感じる時代にあって、
左翼運動に走らない者は、太宰のような荒れた非生産的なデカダン生活をおくっていた、
このことに驚きました。勿論みんながそうではなかったでしょうが。
前掲の「出口なお」も、落ちぶれた身を嘆き酒に浸って
働かない主人に悩まされ続けました。
こんな男がこの頃は沢山いて(今もいるのでしょうが)、
家族をさらに貧乏にしていき、それでも妻たちは夫を受け入れ健気に働きました。
健気になれない女たちはどうなったか?発狂でした。
「出口なお」にはそんな人たちが数多く掲げられています。
憑依というのも発狂のひとつなのかもしれません。
没落を静かに受け入れる美しい母を失い、
貴族というレッテルから離れたいと自殺した弟の直治を失い一人残されたかず子。
彼女はしょうもない男たちをしり目に、
古い道徳を破ってシングルマザーの道を選ぶ果敢な女性に成長していました。
彼女に太宰は次の時代の夢を託したのでしょうか?
自分は投身自殺をして。
短い本は読んでもすぐ忘れてしまう私、
そんななかで記憶として残っていることだけが感動したことになるのではないか?
私もA・Oさんと同じく伊坂幸太郎の「いい人の手に渡れ」はほのぼのと記憶に残りました。
一番最初の掲載の作品だからですかしら?
あとは、筒井康隆の「花魁櫛」。
作者が私より年齢が上なこともあり、黒髪に不気味さを漂わせるのは
前時代的で平凡な書き方かもしれませんが、男と女の恋の駆け引きを楽しめました。
尾崎世界観の「バイバイ」が、人間のどうしてもある種の傾向に陥ってしまう姿が
描かれていて面白かったです。
綿矢リサや金原ひとみになるともう彼女たちについて行けない。
話の内容は記憶にないのに、こんなところだけが今でも頭に残っています。
紹介者:A.Nさん
紹介者:K.Oさん
1945年発表
当時のスターリン体制下のソ連で実際に起きた出来事を動物になぞらえて
パロディー化した風刺小説。
荘園農場にいる動物たちは「イギリスには自由な動物は1匹もいない、
動物の一生は惨めな奴隷の一生だ。
人間から解放され自分たちの農場を作ろう!」と蜂起し、
農場主を追い出し「動物農場」を打ち立てる。
動物たちは「イギリスのけものたち」という歌を口々に歌い
「よつあしいい、ふたつあしだめ」をスローガンに「七つの戒律」を大きく壁に書く。
その中から二匹の賢い豚が頭角を現し、
一つの完全な思想体系を「動物主義」として打ち立て、
他の動物たちを支配し始める。
二匹の豚は権力争いをし片方の豚が追放される。
残った豚のナポレオンは七つの戒律も自分たちに都合が良いように書き加え、
利権を一人占めし、人間たちと手を結び、ついには2本足で歩き始める!
豚と人間の顔の見分けがつかなくなり他の動物たちは衝撃を受ける。
副題をおとぎばなしとしながらハッピーエンドで終わらず善が負け悪が栄える話。
権力を持ったものが自分たちに都合の良いように戒律(憲法)をねじ曲げ、
とんでもない方向に向かおうとしている今の世相を思う時、
この本が問いかける意味を強く感じずにはおれませんでした。
またまた和田先生の信奉者の友人から回ってきた本。
がまんや無理なダイエットは老化をかえって進めてしまう。
食べても太らない体に若返らせる方がはるかに老化予防に役立つし健康にも良い。
食べても太らない体とは筋肉をつけろということか。
出来ることならそんな体を手に入れたいものですが。
脳を使うことがもっともシンプルな老化予防対策とありました。
生涯現役とは一生働くという意味だけでなく、
生涯現役の消費者である、という意味もあるという文にはとても共感を覚えました。
やはり貯蓄に励むより、生きたお金の使い方が大事、ということでしょうか。
読んだ本をまとめて栞の会で発表すること、
身近な素敵な同窓生の先輩をお手本に過ごすこと、これが目下の私の老化防止法です。
紹介者:S.Mさん
紹介者:M.Kさん
紹介者:M.Kさん
紹介者:S.Iさん
紹介者:T.Yさん
紹介者:管理人A
佐藤章氏が上昌弘氏にインタビューしたレポート
著者 佐藤章
ジャーナリスト、元朝日新聞記者
朝日新聞では、大阪経済部、アエラ、週刊朝日など
退職後は、慶応大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)
五月書房新社取締役
インタビュー
上昌弘(かみまさひろ)
1993年東大医学部卒
虎の門病院、国立がんセンター
2016年より 特定非営利活動法人 医療ガバナンス研究所理事長
コロナ対策の失敗点
①無症状の感染者が多数いるという、コロナの特徴をよく知らなかった。
②触感染ではなく、空気感染であることを知ることが遅くなった。
③アメリカでは、早くから、空気感染である論文が発表されていたにもかかわらず、
医療技官が論文を読んでいなかった。
アメリカでは、空気感染と分かっていたので、何十億という予算を組んで、
学校に空気清浄機を設置した。
④中国の武漢から帰国した人の中に、無症状の感染者が多数いたにも拘わらす、
ダイアモンドプリンセス号の感染者が日本初めて、という対応だった。
ダイヤモンドプリンセス号で感染者、死亡者が多数出たのは、
ダクトから、排出されるウィルスのためだということ、
また、このことから関係した医者は空気感染であることを、認識していた。
⑤医療と隔離を一緒くたに対応した。
感染症対策の基本は「検査と隔離」で、世界の常識となっているが、
日本では、無視された。
政府は空気感染ということを認めず、原因は接触感染ということで、
点と点を結ぶ抑制的PCR検査を繰り返すことで、無症状の感染者を野放しにした。
さらに、軽症の感染者、無症状の感染者を病院に隔離することで、病院がパンクした。
隔離と医療切り離して、保健所を通さないで、
一般の医療機関で受診できるようにすれば、病院がパンクすることはなかった。
韓国では、大々的なPCR検査を実施し、コロナを抑え込むことに成功した。
空気感染と分かれば、濃厚接触者に対する積極的疫学調査では、
不十分だった。
政府が、接触感染ではなく、空気感染となかなか方針転換しなかったのは、
自己保身から、方針変更しなかった官僚の在り方に問題がある。
対策
①換気をする
②追加接種をすることで、重症化が8割減った。
追加接種で免疫ができていくことがわかったので、
定期的に追加接種を繰り返し、乗り切っていく。
紹介者:管理人A
プルス家とグレゴル家で100年以上も相続をめぐって、裁判が続いている。
裁判の判決が出る日、突如、美貌のオペラ歌手エミリア・マルティが現れる。
なぜかエミリア・マルティは、誰も知らないこの財産の遺言書のありかを知っている。
なぜ、この美貌のオペラ歌手が100年の昔の遺言書について知っているのか。
徐々にこの謎が解けてくるのだが、なんと、
マクロプロスの処方箋により300年以上も生き続けていたことが判明する。
老いるということは、どういうことか、
永遠の命を手に入れたら、どうなるのか?
という哲学的な命題を提出した戯曲。